不動産専用の営業支援ツール「イエシルコネクト(https://connect.ieshil.com/)」が注目を集めている。サービス提供元は大手アルバイト求人サイト「マッハバイト」をはじめ、中古マンション価格査定サイト「イエシル」などを運営するリブセンス。首都圏の災害リスクを見える化し、業界特有の情報格差をITで埋める試みは、不動産業界に大きなインパクトを与えている。

リブセンス村上太一代表取締役社長リブセンス 
村上太一
代表取締役社長

「時代はITによって、適切に物事が 透明化される方向に動いている」

  2015年にリブセンスがリリースした「イエシル」は、不動産業界に大きな衝撃を与えた。イエシルとは、ビッグデータと人工知能(AI)を利用したリアルタイム価格査定の算出によって、部屋ごとのマンション価格が分かるサイト。3000万件に上る賃貸・売買履歴などのビッグデータを活用し、各物件の価格推移や市場価値をリアルタイム査定、売買判断に必要な価格情報がその場で確認できる仕組みである。

 リブセンスの村上太一社長は、「多くの人にとって、不動産は大きな買い物にも関わらず、納得感を得られないまま購入に至るケースも多い。価格設定の仕組みは複雑かつ情報量が多いので、消費者が価格の適性を判断することが難しいです。そんな不動産の情報の非対称性(情報格差による不平等)をITで解決できないかと考え、イエシルをリリースしました」と開発の背景を説明する。

 サービスの対応エリアは1都3県で、物件数は約27万棟。現在までの会員登録者数は約9.5万人、月間PV数は約60万PVに及び、その存在は着実に浸透し始めている。

 今回リリースされる「イエシルコネクト」はその進化型だ。部屋ごとの物件価格に加えて、地震・洪水・液状化などさまざまな災害データを物件ごとにまとめて検索・確認できるもので、不動産専用の営業支援ツールとして、不動産営業担当者の活用を見込んでいる。内閣府の調査(「住生活に関する世論調査」17年10月)によれば、消費者が住宅選びで最も重視するのは①利便性②広さ・間取り③安全性であり、その消費者のニーズに応える形にもなっている。

8億ポイントに及ぶ
災害情報を分かりやすく編集・加工

 イエシルコネクトの開発は、空間情報の収集・解析に高度な専門技術を持つアジア航測とのコラボレーションで実現した。国や地方公共団体などの調査が主である同社は、データを活用する新規事業を模索しており、一方のリブセンスは災害データの解析に優れた業者を探していた。今回のコラボは両社にとって、互いの要求を補完し合う事業になった。

アジア航測 政木英一 執行役員 社会基盤システム開発センター長 アジア航測 
政木英一
執行役員 社会基盤システム開発センター長

「あらゆる空間・地理情報はバーチャルの中で再現、共有されるべき」

 アジア航測の政木英一執行役員は、「実績のある当社にとっても、1都3県という広域でのデータ解析は初めてのこと。具体的には5m単位に災害の属性データを載せていく作業なのですが、メッシュの総数はなんと8億ポイント。それらのデータを素人でも分かるように見やすく編集し加工する。リブセンスから与えられた期間は2カ月で、ベンチャー企業には健全なスピードでも、われわれにとっては厳しいものでした」と告白する。

 完成したイエシルコネクトは、不動産業者の業務効率化に寄与する新サービス。例えば、いろいろな災害リスクが物件ごとにまとめて検索できるため、提案予定の物件に関する査定書作成時の情報調査コストや時間を削減できる。また専門性の高い災害情報はそのまま営業トークとして活用でき、内見・訪問営業中でもスマホで見られる。“災害リスク”という難易度の高い顧客からの質問が、信頼獲得のチャンスに変わるのである。