創業13年目にして、主力生産拠点がある広島工場の一部を、国外に移すことを決めたエルピーダ。その姿は円高、法人税、インフラコストと逆風にさらされる国内製造業の象徴でもある。

 日本唯一のDRAMメーカーであるエルピーダメモリが、歯止めのかからない価格下落と、かつてない円高で苦しんでいる。10月27日に発表した中間決算では、上半期としては過去最大の567億円の最終赤字を計上した。会見で坂本幸雄社長は、生き残るために「ラインを(海外に)移設するしかない」と話し、2012年にもパソコン向けの汎用品生産ラインの大半を台湾子会社に移す。

 移管するのは、同社が先端技術を注いできた“マザー工場”である広島工場の、生産能力の最大40%に当たる。この決断の背景にはどんな事情があるのか。

 DRAMはパソコンなどに使われる記憶用半導体のことで、10年の世界の市場規模は約392億ドル(約3兆2500億円。当時)に上る。韓国のサムスン電子、同ハイニックス、日本のエルピーダ、米マイクロン・テクノロジーの上位4社で世界シェアの90%以上(売上高ベース)を占めており、激しい競争を繰り広げている。

 まず売り上げの多くが米ドル建ての決済であるため、自国通貨の対ドル為替レートが価格競争力や収益に大きく影響する。リーマンショック前の07年を起点にすると、日本円に対してドルは約35%、韓国ウォンはそれを上回る40%以上安くなっている(図①)。ウォン安の追い風に乗った韓国メーカーが価格競争で優位に立ち、この期間に大きくシェアを伸ばしている。

 現在エルピーダは対ドルで1円円高につき、営業利益が年約30億円マイナスになる。1ドル=85円前後が国内生産で利益が出せるラインとされるが、いつ、その水準に戻るのか先が見えない。

 そこに追い打ちをかけているのが「最先端の技術を使って、おにぎり半分くらいの値段にしかならない」(坂本社長)という、主力商品の急激な価格下落だ。

 主な原因はDRAMを部品として最も使用するパソコンの売れ行き低迷だ。たとえば主流の2ギガビット製品は、昨年11月に約3ドル(約230円)だったスポット価格が、今月11日時点で0.75ドル(約58円)に下がった。まさに「おにぎり半分の値段」であり、業界関係者によると、全メーカーが製造原価(約1.2ドル前後と推定)を完全に割っている状況だ。さらに1世代前の1ギガビット製品は0.57ドル(約44円)だ(図②)。

 ポイントは大き過ぎる「価格下落率」にある。じつはDRAMメーカーは、製品の価格下落をあらかじめ想定し、記憶容量当たりの生産コストを毎年30~40%落とし、利益を出す努力をしてきた。一つのチップのサイズを小さくする「微細化」はその代表的な技術で、円盤状のシリコンウエハという材料に対して、面積当たりの生産効率が上がる。