「保有せずに利用する」というクラウドサービスが次世代のITの利活用モデルとして注目されている。一方、東日本大震災をきっかけに、TCOを削減しながら災害時にもITのサービスレベルを維持できるデータセンターへの関心も高まっている。企業経営者としてはこれらの違いをどう理解し、どう活用すべきなのだろうか。

内山悟志
アイ・ティ・アール代表取締役

大手外資系企業の情報システム部門やアナリストなどを経て、1994年に、情報技術研究所(現在のアイ・ティ・アール)を設立。大手ユーザー企業のIT戦略立案・実行のアドバイスおよびコンサルティングサービスを提供している。IT分野におけるアナリストの草分け的存在として知られる。著書に、『日本版SOX法IT統制実践法』(ソフト・リサーチ・センター:共著)など。

 顧客のサーバを預かって保守・運用業務を代行するデータセンターと、クラウドサービスはどう違うのか。企業システムの実態と動向分析に詳しいアイ・ティ・アールの内山悟志氏は「クラウドサービスのなかで、IT基盤を提供するIaaS(Infrastructure as a Service)と呼ばれるサービスは、これまでのデータセンターのサービス形態によく似ています」と話す。

 ネットワークを介して必要なときに必要なだけコンピュータ資源を提供するクラウドサービスは、アプリケーションを提供するSaaS(Software as a Service)、システムの開発と実行環境を提供するPaaS(Platform as a Service)、そしてサーバとネットワークを組み合わせて提供するIaaSの3層のサービスに分けられる。このIaaSとデータセンターは、他社の設備を借りるという点で共通する。「クラウドサービスのほうが比較的柔軟性があり、借りるリソースの規模や期間などが自由に設定できます」と内山氏はその違いを挙げる。

 こうしたクラウドサービスの登場は、企業にとっては選択肢の広がりというメリットをもたらす。内山氏は「今までITのMake(手作り開発)・Buy(パッケージソフトの購入)・Use(提供されているサービスの利用)という三つの選択肢に、新たにWhere(どこで)という視点が加わり、選択肢は六つになりました(図1)。このメリットを享受するには、システムに応じてどれを選択するかを検討し、切り分けて配備することを考えるべきでしょう」と語る。

図1 ITシステムに対する考え方の変化