リーマンショック以来の景気低迷の中、ギリシャ発の欧州債務危機に襲われた2011年の世界経済。中国・インドなど新興国が存在感を増す一方で、国内外に多くの問題を抱える米国のプレゼンス低下が囁かれている。著書「歴史の終わり」「アメリカの終わり」で知られる日系の米政治経済学者フランシス・フクヤマ氏に、現在のアメリカ社会と経済の問題と、欧州債務危機とグローバリゼーションについて聞いた。 (聞き手/ジャーナリスト 大野和基)

アメリカが現在の状態から
抜け出すには何年もかかるだろう

冷戦終結以降のアメリカ一極支配こそ異例 <br />世界はよりノーマルな多極化へと戻っていく<br />――スタンフォード大学上級研究員<br />フランシス・フクヤマ氏インタビューFrancis Fukuyama
1952年、アメリカ・シカゴ生まれ。父は日系2世、母は日本人。コーネル大学で西洋古典学を学んだ後、ハーバード大学大学院で政治学博士号を取得。ランド研究所を経て、1981~82年、89年の2度、米国務省政策企画部で中東、欧州を担当。89年ベルリンの壁崩壊直前に発表した論文「歴史の終わり」が話題になり、後に単行本として刊行。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)教授を経て、現在スタンフォード大学上級研究員。

――アメリカはすでに衰退し始めていると言われていますが、何が今のアメリカの状況をもたらしたと思いますか。

 今、同時にいくつかのことが起きています。アメリカの覇権の終焉は、ひとつには中国や新興列強の台頭によって促進されています。冷戦の終わりから金融危機までの20年間は、異例の期間でした。アメリカが異常なまでに世界を支配したからです。そうした一国支配の状態が今後も続くことを期待すべきではないと思います。今の状況は、ある意味でよりノーマルな多極的世界に戻っているだけです。

 しかし、アメリカにはそれとは別の問題があります。国内の問題への対応がうまくいっていないことです。まず長期的な財政状況が悪化しています。世界の準備通貨を提供するというアメリカの役割が、対外債務の累積に甘んじる原因になったと思います。さらに自由市場イデオロギーに執着したために、銀行を規制しなくなり、そこに中国での通貨余剰が重なって、金融危機を生みだしたと思います。その深刻度を考えると、この状態からアメリカが抜け出すには、何年もかかるでしょう。