テレビが売れていないらしい。とは言っても、昨年7月に地上デジタル放送への完全移行があった薄型テレビの昨年の出荷台数は、電子情報技術産業協会(JEITA)の発表によれば、11月時点で1800万台を超えている。これは、1昨年の2519万台に次ぐ大きな数字だ。

 売れていないのは、地デジ移行前の駆け込み需要が一段落したからで、11月時点で4ヵ月連続で前年比を大きく下回っているという。当然、現場では予想していたことで、価格を下げるなどの対応を行なっているが、大きな効果は見られないようだ。

 それにしても、2010年と2011年だけで、薄型テレビは4300万台も売れているのだ。地デジ完全移行や家電エコポイントなどの追い風があったにせよ、人口1億3000万弱、世帯数5000万弱の国で、2年間で4300万台である。十分ではないかと思うが、それは素人考えで、業界はそれ以上の台数を期待していたのだろう。

 現時点で、テレビを観たいのに観られない、受像機を持っていない人はどれだけいるのだろうか。何らかの事情で地デジ移行に対応できなかった世帯の全世帯に占める割合が、テレビの販売台数を飛躍的に伸ばすほどあるとは考えにくい。テレビには、かつて一世帯が2.5台所有していたという黄金時代がある。昨年3月の時点では、世帯当たり1.6台だったと言うから、まだ伸びしろはあるように見える。だが、世帯保有台数はすでに飽和状態にあるという。

 今、テレビを持っていない人のほとんどは、テレビを必要としていないはずだ。新モデルが出るたびに購入する人も少ないだろう。ここ数年以内にテレビを買い換えた人の多くは、修理不能の故障が発生でもしない限り、新たに買い求めない。

 スマートフォンやパソコンの場合、まだ使えるがスペックがもの足りないので買い換えるという選択は一般的だが、テレビはどうだろう。洗濯機や電子レンジを毎年購入する必要がないのと、同じかもしれない。

 もちろん、製造や販売に携わる人々は、このような状況も折り込み済みのはず。家電量販店も数年前から次を考え、販売チャネルの拡大やテレビ以外の商品の販促、そして販売以外のサービスによる収益源の確保に乗り出しているのだ。それでも、「売れない」ことがこうしてニュースになるのだから、テレビの存在はまだまだ大きいとも言える。

(工藤 渉/5時から作家塾(R)