鮪の大トロや松茸のように、江戸時代はとても安価だったものが、現在では高級食材になってしまったものもあれば、今回のテーマである「卵」などはその真逆です。

 江戸末期に書かれた類書(百科事典)、『守貞謾稿《もりさだまんこう》』によれば、かけそばが一杯十六文の時代に、卵の水煮(ゆで卵)が一個二十文で売られていた、という記述があります。

 仮に、かけそば一杯を400円とすれば、ゆで卵一個が500円!

 今なら、卵1パックが200円前後で買えますから、約20倍もしたということになります。

江戸時代、高級品だった「卵」は、<br />ほぼ完璧な栄養バランスの“完全食品”ねぎ入り炒り卵
【材料】葱…1/2本/卵…2個/胡麻油…大さじ1/塩…ひとつまみ/醤油…小さじ1
【作り方】①葱は5mm幅の小口切りにし、よく溶いて塩と醤油を入れた卵に混ぜる。②フライパンを強火で熱して胡麻油をなじませ、1を一気に入れて、フライパンを前後にゆすりながら、菜箸で卵をぐるぐるとかき混ぜる。7割方卵が固まったら火を止め、余熱で全体が固まるまでかき混ぜる。

 高値の理由として考えられるのは、

・基本的に肉食が禁じられていたため、鶏は食用ではなく、愛玩用に飼われていた
(卵の販売を目的とした養鶏所ができたのは、江戸末期のこと)

・当時の鶏は、毎日卵を産まなかった(品種改良を重ねた現在の鶏は、25時間に1個の間隔で卵を産みますが、本来の鶏は、5~6日に1個のペース。しかも暑さ寒さが厳しい季節や、卵を温めている間は次の卵を産みませんでした)

 といった理由からで、卵というものは、江戸近郊の百姓家が、庭で放し飼いにしている鶏が自然に産んだ卵を、野菜のついでに売りに来るものだったようです。

 江戸末期には生卵やゆで卵の行商人もいましたが、浮世絵などを見ると、八百屋の一角にもみ殻を敷き詰めた板箱を置き、そこに卵を一つずつ立てて売られている様子が描かれています。