月日が流れるのは早いもので、東日本大震災の発生からはや1年が経とうとしている。真の復興までにはまだまだ問題が山積みであることに変わりはないが、あの日の出来事が多くの日本人の「何か」を変えたことは間違いない。

 2011年の「今年の漢字」に「絆」が選ばれたことに象徴されるように、大震災を機に多くの日本人の間に、「身近な大切なものを見つめ直そう」「自分にできることをやろう」という気運が湧き上がった。そして、それは今も変わらないのではないだろうか。

 昨年12月、森永製菓が行なった「バレンタインとチョコレートに関する意識・実体調査」のなかに、「東日本大震災をきっかけに『あなたがチョコレートを贈ろうと考えている人に対する感情』に変化があったか?」(女性対象・複数回答)という設問がある。いくつかある選択肢のうち、以下の4つに、半数以上の回答者が「あてはまる」と答えている。

  ・大切にしたいという気持ちが増した 75.7%
  ・感謝の気持ちが増した 71.4%
  ・大切な存在であるということを伝えようと思った 68.6%
  ・「絆/つながり」を持っていたいという気持ちが増した 57.1%

 近年は、「本命」「義理」だけでなく、男性から女性への「逆チョコ」、女性から女性への「友チョコ」なる現象も定着しつつあるらしいが、今年のバレンタインデーに関しては、チョコを贈る動機に変化の兆しが見えるというか、新たな動機が芽生えているようだ。同社の調査によると、昨年のバレンタインと比較して「今年チョコレートを贈る数が増えそう」と回答した女性は、20.2%に上ったという。

 その理由は、本命でも義理でもなく、自分の周囲にいる大切な人たちにできるだけ多く感謝の気持ちを伝えたいという気持ちが高まっているためだという。森永製菓はこの状況を、あたかもFacebookの「いいね!」ボタンを押すように気軽にチョコを配ろうとするトレンドが見られると結論づけている。このトレンドを「絆チョコ」と称するメディアもある。

今年のバレンタインデーはもらえるチョコが増える?<br />本命でも義理でもない「いいね!チョコ」に期待「昨年のバレンタインデーにチョコレートを贈った相手と、今年贈ろうと思っている相手は?」に対する回答(女性対象、複数回答)。今年は「家族」が大幅に増えそう。青の棒グラフは昨年贈った相手。赤は今年贈ろうと思っている相手。
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 同調査の内容を詳しく見てみよう。上のグラフは、「昨年のバレンタインデーにチョコレートを贈った相手と、今年贈ろうと思っている相手は?」という問いへの回答(女性対象、複数回答)である。配偶者や恋人、友人、付き合いのある人などの割合にはあまり変化が見られないが、家族は39.5%から49.4%に大きく伸びている。

 これは、「家族に、日頃の感謝を込めて、大切に思っている気持ちを伝えようとしている女性が増えている」というだけではなく、「家族との絆を強めたい」「家族を大切にしたい」と強く考えている女性が増えていることが、根底にあるのではないか。

 ただし――これは私見であるが――「大切に思っている」「大切な存在である」「感謝している」ことを伝えたいという女性が増えていることは確かだが、そのウエイトは「伝えたい」という意識にあるようにも思える。注目すべきは、「片思いの相手」が5.0%から7.7%と、絶対数は少ないものの1.5倍以上に増えていることだ。

 つまり、「家族」「片思いの相手」などの伸びは、「伝えたい」「知って欲しい」「伝えなきゃ」という気持ちが高まっているというだけでなく、「言葉にする」「行動する」という能動性、あるいはその大切さの自覚が、日本人(女性)のなかで高まっていることの一端をうかがわせるものではないだろうか。

 筆者としては、「いいね!チョコ」というネーミングはちょっとどうかと感じるが、東日本大震災発生からまる1年を迎えようとしている今年のバレンタインデーは、世の女性が「自分にとって本当に大切な人、感謝すべき相手、お世話になっている人は誰なのか」をじっくり考える、よい機会になりそうだ。また男性にとっても、チョコをもらえる確率が上がる「うれしいバレンタインデー」と言えるかもしれない。

●「森永製菓 2012 年バレンタイン意識調査」調査概要
*調査期間:2011年12月17日~12月19日
*対象:全国男女600名(大学生・専門学校生/男女各50名 計100名、社会人・主婦/20~24才、25~29才、30~34才、35~39才、40~44才/男女各50名 計500名)
*方法:インターネットによるアンケート回答方式

(吉田克己/5時から作家塾(R)