アメリカのテクノロジー業界人ならば、オライリー・メディアという名前をよく知っているはずである。コンピュータのプログラミング言語の専門書を長らく出版してきた会社で、刻々と変化するテクノロジーの状況も、オライリーの本を読んでいればちゃんと把握できるというくらい、信頼されている存在だ。

 そのオライリーは、「これからの出版社とは、こういったかたちになるのではないか」と思われる活動を、ここ最近増やしている。それをご紹介しよう。

 まず、オライリー・メディアが出版以外で注目を集めたのは、会議ビジネスだ。以前からOSCON(オスコン)というオープンソース・ソフトウェア関連の会議で知られていたが、俄然注目を集めたのはWeb2.0という会議である。インターネットが個人の利用するものから、ユーザー同士がつながることによってまったく異なった働きをするようになることを予測したこの会議は、たちまちのうちにテクノロジー関係者だけでなく、一般の人々も注目するものになった。2004年のことである。

 オライリー・メディアを創設したティム・オライリーは、同じくして『Web2.0とは何か』というエッセイを書いたが、そこに見られた天才的な洞察力は、インターネットが次の時代へ進化したことを十分に実感させる説得力を持っていた。

 オライリーが最近開催している会議にはそれ以外にも、位置情報を扱う「Where2.0」、電子書籍の新たなツールに関連した「TOC」、そしてビッグデータを議論する「Strata」などがある。いずれも、テクノロジー関係者だけでなく、次のビジネスの指針を探りにくる人々、投資先を探しているベンチャー・キャピタリスト、文化関係者など、幅広い人々が集まる場となっている。

 前出のティム・オライリーは、テクノロジー業界を見ていて、そこに浮かび上がってくる「パターン」に興味があると語ったことがある。まだ誰にも見えないが、テクノロジーの動きに敏感な人々にだけ捉えることができる新しい動きを察知して、それを業界関係者に見せる。そうすることで、実はオライリー自体が次の流れを作っているとも言えるのだ。

 もちろん、ひとり1000数百ドルする参加費、企業がブースを設けるための展示費、スポンサー企業の賛助費などは大きな収入になる。だが、それ以上に、人々が集い、意見交換や情報交換をする場を提供し、場合によっては新しい産業の芽を生み出すという機能を、この会議は果たしているのだ。本を出版して読者とコミュニケーションするだけの関係と、新産業を先導するような立場との間には、ずいぶんな違いがある。こうした場を提供することを通して発見した新興企業に、オライリー・メディアが投資を行うこともある。

 こうした会議というイベントに加えて、オライリーは出版でも数々の実験を行っている。