東日本大震災から間もなく1年。今回の東日本大震災では津波が起こったせいもあり、自宅をなくした方がかつてないほど大勢います。自宅がなくなっても住宅ローンは残るため、生活再建のためには「地震保険」の加入を検討したいもの。「仕組みが特殊でわかりづらい」と言われる地震保険を、保険のプロである清水香さんに解説してもらいました。(全3回連載)

経済的ダメージを軽くする「地震保険」は
田中角栄が創設した

 前回、地震で自宅を失った場合にはローンという負債は残るので「マイナスからのスタート」になるということをお話しました。

 その負債を減らすための保険が地震保険です。

「地震保険」の加入率は3割未満。<br />住宅ローンが残っているなら資金対策は必須!清水 香(しみず かおり) 1968年東京生まれ。ファイナンシャルプランナー。学生時分より生損保代理店業務に携わるかたわら、FP業務を開始。2001年、代理店での10年間の 経験を生かし独立、のち(株)生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。相談業務、執筆・講演なども幅広く展開、TV出演も多数。著書に『見直し以前の 「いる保険」「いらない保険」の常識』(講談社)、『こんな時、あなたの保険はおりるのか?』(ダイヤモンド社)、共著に『災害時絶対に知っておくべき 「お金」と「保険」の知識(ダイヤモンド社)』ほか多数。 日本経済新聞電子版「自動車保険」、オールアバウト「火災保険の選び方」などで連載中。 所属先:(株)生活設計塾クルー http://www.fp-clue.com/

 今、火災保険に加入している人は多いでしょう。しかし、火災保険は地震・噴火、またはこれらによる津波が原因の被害については、保険金の支払い対象外となっています。

 そこで、地震被害時にこうむる経済的ダメージをカバーするほぼ唯一の手段となるのが「地震保険」なのです。

 そもそも保険とは、その発生確率などから保険料がはじき出されるしくみです。たとえば、35~39歳の男性の1年間における死亡率は0.1%ですが、その発生確率で保険金の支払いが発生しても収支が成り立つように、保険料が計算されます。

 一方で地震の発生確率はどうでしょうか。わが国はM6クラスの地震の2割が起こる世界有数の地震国ですが、その発生頻度や被害規模を、いまだ予測することは困難な状況にあります。

 つまり、将来における地震の発生確率や損害規模についての予測が難しいため、保険の仕組みにはなじみにくく、ゆえに各地で地震による被害が頻発していながらも、少し前まで、わが国に地震に対する補償制度は存在していなかったのです。

 地震保険誕生の契機は昭和39年の新潟地震でした。当時、大蔵大臣であった田中角栄の強力な後押しで、昭和41年「地震保険に関する法律」が施行され、官民一体で保険金の支払義務を負う地震保険制度が誕生したのです。

どこの保険会社に入っても保険料は同額。
保険会社は利益をとっていない

 発生規模も確率も予測不能な地震を対象にしても、保険金は確実に支払われなければなりません。ですから、地震保険には他の保険にはない種々の特徴や制約があります。

 そもそも、地震保険によって損害保険会社は利益を得ることはできません。法律では、契約者が支払う地震保険料のうち、契約上の必要経費を除いた額とその運用益のすべてを責任準備金として積み立て続けることを、政府および保険会社に義務付けています。

 そこで各保険会社が契約者から預かった保険料は、保険会社の利益なしに積み立てられ、さらに保険料の一部は再保険として政府に支払われることになります。その再保険料および責任準備金の運用益のすべてについても、政府により積み立てられて、これらは一般会計とは区別され「地震再保険特別会計」として管理されています。

 つまり、地震保険制度ができてからこれまでの間、私たちの支払った保険料は保険会社や国によりプールされ続け、こうして官民合わせて積み立てられたプール金(責任準備金)の残高は、平成21年度末時点で約2兆3000億円に上り、東日本大震災における総支払保険金1兆2000億円超の過去最大となる巨大な支払いも、滞りなく行われました。

 地震保険制度では、1回の地震で政府や保険会社が支払う保険金の総額を法律により5兆5000億円までとしており、さらに、平成24年4月1日以降は、保険金総額の上限が6兆2000億円に増額されることになりました。6兆2000億円とは、南海地震による被害を受けると想定される2府21県の契約者の保険金額の総額に相当します。

 ところが、今回の東日本大震災の地震保険金が支払われた後のプール金は、1兆円程度まで減少してしまっています。

 支払う保険金総額の上限に大きく不足していますが、それでも法律によって、この金額までは保険金の支払いが保証されています。ですから、地震発生時にたとえ責任準備金に不足が生じていても、政府は補正予算を組み、保険会社は政府や銀行への借入れを行うなどして不足分の資金をそれぞれが立て替え払いし、5兆5000億円までは地震保険金が支払われることになります。