高血糖で認知機能が低下、健康的な生活が脳を守る

 高血糖が血管の内側を傷つけ「血管の障害」を引き起こすことはよく知られている。

 血管の内側は血液が流れやすいように「内皮細胞」でいわばコーティングされているのだが、高血糖に曝されるとコーティングが剥がれ、機能が損なわれてしまう。

 その結果、末梢血管が詰まり手足が痺れるほか、大きな動脈が詰まれば心血管疾患を引き起こす。血管の障害は当然、全身に及ぶため、脳血管も影響を免れない。

 今年1月に欧州糖尿病学会誌に報告された調査によると、過去数カ月の血糖の状態を反映する「HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)」の値が増加するほど、認知機能が低下することが示されている。

 同調査は2002年以降、2年ごとに50歳以上の英国人を対象に、生活習慣と健康との関連を調査しているもの。今回は対象者から5189人(平均年齢65.6歳、女性55.1%)を抽出し、04~11年の計5回分のデータを解析。

 教育の程度や婚姻状況、喫煙・飲酒の状況、血糖以外の血圧や脂質の検査値などの影響を調整した後、HbA1cと認知機能との関連を調べた。

 その結果、HbA1cが増すごとに、認知機能テストの総合スコアが低下。記憶や見当識、実行機能──目的を持った行動を自律的に行う機能を測る個別スコアも、HbA1cが増加するごとに直線的に低下することが示されたのだ。

 実際、登録時点で糖尿病や糖尿病予備群と診断されていた対象者は、健康だった対象者と比較し、認知機能テストと実行機能テストのスコアが有意に低下していた。

 日本で半世紀以上続く疫学研究「久山町研究」でも糖尿病の人は健康な人と比較し、アルツハイマー型認知症や血管性の認知症の発症リスクがおよそ2倍になることが報告されている。つまるところ糖尿病は「血管病」であり、栄養と酸素を運ぶ交通網が寸断されれば、格段に「大食らい」の脳が機能障害を起こすのは当然なのだ。

 健康診断前に1食抜いてもHbA1cの数値はごまかせない。数値が芳しくなかった方は、おとなしく食改善と運動に取り組むこと。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)