最近の米ドル高・円安は、値動きからすると「一時的」ではない可能性が高まっています。

 ただ、実は、金利差、需給などファンダメンタルズから見ると、まだほとんど円安への転換は確認されていません。

 米ドルの反落が85円突破の前になるか、それとも後になるかが、円安への転換を巡る議論の再燃をも左右しそうだということについて、今回は書いてみたいと思います。

米ドル/円は5週連続で
52週線を上回った

 米ドル/円は先週(3月12日~)まで5週連続で52週移動平均線を上回り、特に、先週の終値は、52週移動平均線(以下、52週線)を5%以上と、大きく上回りました(「資料1」参照)。

資料1
米ドル高・円安はファンダメンタルズ変化の<br />「先取り」なのか? 「先走り」なのか?

 経験的には、このように52週線を長く、また大きくブレークした動きが「一時的」だったことはほとんどなかったようです。

 その意味では、値動き的には、一時的ではなく、米ドル高・円安へ転換している可能性が高まっていると言えそうです。

 ただ、仮に、米ドル高・円安へ転換したとしても、それはファンダメンタルズでの確認にはいまだ至っていません。

 たとえば、この間、代表的なファンダメンタルズでの米ドル安・円高理由は、金利差と米国の超金融緩和を受けた需給があったと考えられますが、それは最近にかけても顕著な変化は見られません。

金利差米ドル優位なくして
米ドル買い・円売り本格拡大なし

「資料2」は、円のポジションと日米政策金利差のグラフを重ねたものです。

 これを見ると、米ドル買い・円売りが継続的かつ本格的に拡大するためには、金利差米ドル優位の大幅な拡大が必要だったことが改めてわかるでしょう。

資料2
米ドル高・円安はファンダメンタルズ変化の<br />「先取り」なのか? 「先走り」なのか?

 そんな日米の政策金利差は、2008年末にFRB(米連邦準備制度理事会)もゼロ金利政策に踏み切ってからほぼゼロの状況が続き、現在に至っています。

「資料2」を見ると、そういった金利差がない中でも、2010年5月、2011年4月など、米ドル買い・円売りが拡大した局面はありましたが、それは「短命」に終わり、継続的かつ本格的拡大とはなりませんでした。

 政策金利差ではなく市場金利差では、米ドル優位が徐々に拡大してきました(「資料3」参照)。

資料3
米ドル高・円安はファンダメンタルズ変化の<br />「先取り」なのか? 「先走り」なのか?

 ただこれも、最近のように80円を大きく上回っている米ドル高・円安を正当化できる水準までには、まだまったく至っていません。

「ソロスチャート」が示す
日銀の政策の効果

 今回、米ドル高・円安が加速するキッカケとなったのは、2月に日銀がインフレ目標を決定し、追加緩和したことでした。

 では、これによってこれまで米ドル売り・円買いに大きく傾いていた需給が変わり始めたということがあるかといえば、それもかなり懐疑的です。

「資料4」は、米ドル円のグラフに、日米の中央銀行が供給する資金、それをベースマネーと呼びますが、そのベースマネーの比率を重ねたものです。

 このチャートは、両者に一定の相関関係があることを、かつてヘッジファンドが注目して話題になったことから、ヘッジファンドの代表的な人物の名前をとって「ソロスチャート」と呼ばれています。

資料4
米ドル高・円安はファンダメンタルズ変化の<br />「先取り」なのか? 「先走り」なのか?

 この「ソロスチャート」を見ると、2月の日銀による追加緩和以降も、記録的な米ドル余剰によって米ドル安・円高の可能性を示唆していた構図が、急に米ドル高・円安を示唆する方向に大きく変わり始めたといったことは、これまでのところまったくないようです。

日銀の金融政策の効果は
ほとんどなかった

「ソロスチャート」を見ると、2008年9月のリーマンショックを前後し、FRBの金融緩和が急拡大して以来、米ドル余剰は空前の米ドル安・円高を示唆する構図となり、それは最近にかけてほとんど変化ないと言えそうです。

 少し細かく見ると、2010年にこの日米ベースマネー比率が示すドル余剰は縮小し、米ドル高・円安への可能性を示す時期がありました。これはFRBが一時出口政策を検討したことが主因でしょう。

 ただそれも、2010年11月に、量的緩和第2弾、いわゆるQE2を始めると改めて、さらなる米ドル安・円高を示唆する動きに向かいました。

 こんなふうに見ると、少なくともここ数年間は、米ドル/円において日銀の金融政策の影響はほとんどなかったということになるのではないでしょうか。

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