「iPad」商標を侵害しているとされた米アップル社が、中国企業に訴えられている騒動を目の当たりにし、中国に進出する日本企業の多くは、「明日はわが身」と肝を冷やしていることだろう。我々日本人の感覚では、どう考えても中国企業側の主張に疑問符を投げかけざるを得ない。だが、商標権に関する各国の認識のバラつきを見る限り、中国ばかりを責めることもできないという難しさが根底にある。加えて、権利保護に関する中国の「モラル」がまだまだ低いという国内事情が、事態を一層難しくしている。詳しく調べてみると、中国と日本の間にも、数え上げればキリがないほど商標権問題の「火種」が燻っていることに驚かされる。知財暴君国家・中国に対して、我々はどんな予防策を講じればいいのか。彼らをうまく取り込んで、商標権の世界共通化を目指すには、どんな認識を持てばよいのだろうか。(取材・文/岡 徳之、協力/プレスラボ)

世界の常識は中国に通じないのか
燻り続けるiPadの商標権侵害騒動

 世界の常識は、中国には通じないのかもしれない。中国広東省深セン市のIT企業・唯冠科技(以下、唯冠社と記述)が、中国で自らが有する「iPad」の商標権を米アップル社が侵害していると主張し、同社に対して中国各地で「販売差し止め」を求める訴訟を起こしている騒動は、いまだ終息していない。

 iPadがアップルの製品であることは、誰もが知る事実だ。当然ながら、iPadの商標権もアップルに帰属するものだと思われている。しかし、グローバル市場においてはそうは問屋が卸さないようだ。

 唯冠社は、アップルに先立つ2000年代初頭に台湾で「iPad」商標を登録していた。アップルはこの事実を知り、2009年に唯冠社と交渉。台湾のグループ企業と契約し、大金を支払って商標権を獲得している。

 ところが、それだけでは済まなかった。「当然、中国本土でも商標権を得られたもの」と思っていたアップルは、ここに来て唯冠社に訴えられてしまう。実は台湾と同時期に、中国本土でも唯冠深セン名義で「iPad」が商標登録されていたのだ。唯冠社は、「台湾と中国で商標登録されたものは別物扱い。売却したのは中国国外の商標権だけ」と主張している。

 アップルはこれに強く反発し、事態は泥沼化。現在、広東省の高等裁判所をはじめ、各地で係争が行なわれている。先頃、上海の裁判所では唯冠社の主張が退けられたようだ。また、唯冠社が破産手続きに入る見通しになったことが報じられ、和解の可能性も見え始めた。