自分は変わったという錯覚に陥る人たち

 ある会合でこんな話を聞いたことがあります。

「研修やワークショップなどで人に教えるときは、あらかじめ何が得られるかを参加者に明らかにし、帰るときにあなたはこう変わっていますと伝えなさい」

 研修やワークショップに参加するような人は、ほんの一部の例外を除いて、自分を変えたいと思っている人、今後成長していくために自分は変わらなければならないと切実に思っている人が大半です。

 しかし、たった数時間や1日、長くても数日で人を変えることなど、到底できるとは思えません。

 にもかかわらず、会合で主張された「相手を変えよう」という考え方は、参加者の「変わりたい」「変わらなければならない」という心理につけ込みなさいということと同義だと思わざるを得ません。

 参加者に、あらかじめ「変わりますよ」と刷り込んでおけば、変わらなければと思っている人は「変われるんだ」と期待して話を聞くものです。そこで話された内容が自分を変えるようなものではなくても、変わったと思い込みたい参加者は、自らすすんで変わったと錯覚してくれるものです。

 研修やワークショップの最後に、講師がよくこんなことを言います。

「皆さんは間違いなく変わっていますよ。初めてここに来たときとはまったくの別人になっています。今や、皆さんは他の人にレクチャーできるほどに変わったのです」

 こんなことを言われると、参加者は本当に自分が変わったと思い込みます。換言すれば、変わりたいと思っていたからこそ、実際には変わったわけでもないのに変わったと思い込みたいだけなのではないでしょうか。