これ以上治療しても治る見込みのないガンならば、余命にかかわらず保険金を前払いします――。

 10月29日、住友生命保険が発売した、余命にかかわらず前払いする「がん長期サポート特約」に、業界は衝撃を受けた。

 この特約はガンにかかり、一連の治療を受けたが効果がないことや、医学的に有効と認められる治療法がないなど所定の要件を満たせば、余命にかかわらず、3000万円を限度に保険金の前払い請求ができるというもの。

 じつはすでに似た仕組みにリビング・ニーズ特約があるが、こちらは余命6ヵ月以内との医師の宣告が必要となる。そもそもガンの告知だけでも大変なのに、余命を宣告することは医師にとって技術面に加え、心理的にもハードルがそうとう高い。そのため、十分利用されているとは言いがたかった。

 そこで住友は思い切って余命の宣告を取り払う決断を下した。確かに保険金支払時に、3年分の保険料相当額と利息を差し引くが、3年を超えて生存した場合は、保険会社の持ち出しとなる。

 だが、「蓄積してきた医療情報や多くの医師の助言を得て設計したため収支は合う。また、診断書も工夫を凝らし、支払い管理体制も万全」(成山育宏・商品開発室長)。医師側も「カルテの転記ですむ。心理的ハードルは低い」と好評だ。

 さらに特約の保険料は無料。しかも健康状態にかかわらず既契約に途中付加できるため、すでに治る見込みのないガンにかかっている人でも、特約を付加して即座に保険金を請求できる。もちろん、保険金前払いのため、死亡保険金のある商品に加入していることが前提だ。また、保険期間の残りが5年以内であれば対象外となるなど条件はある。

 住友の支払い実績によれば、治療困難とされるガンが転移した患者で半年以内に死亡する人は約3分の1。残りの約3分の2は、半年を超えてガンの闘病を続ける。また、厚生労働省の調査では、ガン患者の3人に1人が仕事を辞めており、収入が途絶えたうえ、治療費もかかる二重苦に陥ることも少なくない。

 「医療保険だけでは心もとない。経済的破綻の回避には、大型の死亡保障はまだまだ有効」(成山室長)。生存時での保険金の使途を拡大させたこの特約、保険の機能が進歩しただけでなく、大型の死亡保障が見直されるキッカケとなる可能性も秘めている。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 藤田章夫)