仕入れ先の見直しもやった、コスト削減もやった、社員に発破もかけた。でも、営業成績は上向かない。それどころか、落ちるばかり――。モノが売れない時代と言われて久しい。世の中には企業の規模にかかわらず、苦戦を強いられている営業部隊は多い。そして、その組織を束ねる経営者の悩みはもっと深い。筆者は、そんな企業の営業部隊を改善するコンサルティングを専門にしてきた。今後数回で紹介する内容は、筆者がコンサルタントとして関わってきた複数の企業で、実際に直面した問題とそれを解決していく実例をベースに書いている。しかしながら、守秘義務があり、実際の企業名は伏せさせていただいた。そのため、スズキ電機工業という企業名をはじめ、登場する人物もすべて仮名である。問題点は、多くの企業で共通するだろう。改善方法をぜひ参考にしてほしい。

ついに赤字に転落
業績悪化が止まらない

 あれは3年前の夏だった。

 卸業界向けに「営業幹部の育成方法」というセミナーを実施した日のことだ。セミナー終了後、参加者の方々とひとしきり名刺交換をするなか、最後に挨拶をしたのが鈴木社長だった。そして、おもむろにこう話しかけてきた。

「実は折り入って相談があるのですが、少々時間をいただいても大丈夫ですか――」

 話を聞いてみると、鈴木社長の悩みは深そうだった。

 鈴木社長は、亡くなった先代の後を継いで10年前に株式会社スズキ電機工業の社長となった。スズキ電機工業は、工場などで使われる制御系の機器、エアコン、照明器具、スイッチ、ケーブル等を取り扱う専門商社として、首都圏中心に事業を展開している。創業50年を超える優良企業だ。

 ピークには売上高130億円を達成していたが、ここ数年は業績が下降線を辿っている。昨年決算では売上高も100億円を割り、ついに赤字に転落してしまったという。

 鈴木社長は、打開策として、すでにいくつかの手を打っていた。例えば魅力のある仕入先を開拓するとともに、成長見込みのない仕入先との取引を止めた。さらに、採算のとれない営業所を閉鎖した。力のある若手を積極的にリーダーに登用するなど、営業マンのモチベーション向上施策にも取り組んだ。

 しかし、なかなか結果が出なかったという。営業所を巡回すると、社員は日々忙しく働いていて、士気も高い。いったい、何から手をつけるべきなのか。

 そこで、なんとかしようと、知り合いの社長仲間に相談すると、スズキ電機工業では社員に対して体系的な教育をしてこなかったことに気がついた。営業マン1人当りの生産性が年々落ちている。

 鈴木社長のハラは決まった。 

「25拠点の営業所リーダーにマネジメント教育をして、拠点間の生産性のバラつきを改善しよう」

 こうして、筆者に声をかけてきたのだという。