労働者の権利保護施策を相次いで打ち出している中国が、またもや新たな制度を導入する。昨年末に公布、5月1日から施行される「労働争議調解仲裁法」である。

 中国では、賃金の支払いや解雇などをめぐり、労働争議が多発。政府も問題視している。従来、労働争議が発生した場合は、まず労使間での協議、調停を行ない、解決に至らなければ専門機関を介した仲裁、さらに訴訟という段階を踏むものとされていた。このうち、調停までは企業内での措置であり、当然ながら企業寄りの結果となるため、労働者の不満が大きかった。

 そこで労働争議調解仲裁法では、新たに公的な調停機関を設置、調停の位置づけを引き上げる。加えて、一定の条件を満たす場合は仲裁を“最終決定”として提訴を認めないことや、交通費を含む仲裁費用を国が負担することなどが定められている。総じて労働者の立場を強化する内容で、争議はますます増加することになりそうだ。権利主張がより“過激”になることも予想される。

 問題は、公的な調停において公平性が保たれるのかである。「中国のこの種の機関では専門知識を持つ人材が圧倒的に不足しており、特に地方部では、運用面での不安を感じざるをえない」(ジェトロ海外調査部・中国北アジア課)。

 企業側にとっては、“いかに企業内の段階で解決するか”が重要となる。日系企業は賃金水準の高さなどからそもそも労働争議が少ないが、実際には、正規の調停によらず内々で“日本的解決”を行なっている場合が多いと見られている。法規は遵守しているものの、残業代未払いなど“グレーゾーン”の部分もあるという。

 現状、常設している企業がほとんどない調停委員会も、今後は設置を迫られるだろう。さもなくば、労働者が公的機関に持ち込んで不利な裁定が下される可能性があるからだ。

 さらに同法では調停・仲裁での立証責任を当事者双方に課しており、勤務状況の文書化などの備えも必要となる。ことに中小企業にとって、負担増は必至だ。

 法律自体は“当たり前”の内容だが、進出企業にとっては、また一つ頭痛のタネが増えることになりそうだ。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 河野拓郎)