普通の人がお金との付き合いを考える場合に大切なことは、「稼ぐ以上に使えない」という単純な事実だ。「稼ぐ」の中に運用益まで入れると全面的にその通りだが、「普通の人」の運用額では、運用で解決できる問題のスケールに大きな期待を持たないほうがいい。「運用」を専門とする筆者にとっては少し残念だが、真実だ。

 お金との付き合い方を「普通の人」に説く場合は、このあたりから易しく教えるのがいいと思う。しかし、易しさを売り物にする書籍は、著者のファイナンス知識が不十分で、誤りが書かれていたり、商業的な影響を受け過ぎていたりすることが多く、油断できない。

 この点、ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔氏の新刊『お金の知恵は45歳までに身につけなさい』(青春出版)は、著者(年金制度に詳しい)がいい意味で庶民感覚を持った人でもあり安心だ。46歳以上の読者を捨てるような微妙なタイトルだが、著者によると、「45歳は人生の折り返し点なので、まだ先が長い」という趣旨だ。中高年が読んでも役に立つ。

 近年、年金制度に対する信頼が低下しており、「老後の経済不安」が取り上げられることが多いが、この問題は、現役時代と老後の消費を計画的に平準化できるか否かに大半がかかっている。

 例えば、26歳から65歳まで40年間稼ぐとしよう。66歳から85歳までの20年分の老後資金を用意するには、運用利回りがインフレ率をちょうど相殺すると仮定するなら、現役時代に稼ぎの3分の1を貯蓄できれば、老後に現役時代の平均と同水準の暮らしができるはずだ。頼りないとはいえ、加えて年金が丸々プラスアルファとして残ることを思うと、おそらくは手取り収入の25%、余裕を見て30%貯蓄できるなら盤石だ。

 付け加えると、年々の技術進歩で、物質的な生活は毎年豊かになっている。特に、テクノロジーに関係する消費財は、3年前の高級品の性能が今や価格的に誰でも手に入るような普及品になっている。

 問題は、手取り収入の7割で暮らす自制心と、そのレベルの生活に対するベンチマーキングだ。