第3章

 ロバートの言う方に目を向けると、長身の男と頭ひとつ小さい男が、並んでフロント前に立っている。

「長身の方はジョン・ハンター。ユニバーサル・ファンドのCEOだろ」

「俺が教えたんだったな、ユニバーサル・ファンドについては。多少は調べたんだな。じゃ、右の男は」

「初めて見る顔だ」

「ユニバーサル・ファンド最高戦略責任者のアルバート・ロッジ。36才だ。MIT出身の宇宙物理学者だったんだが、宇宙の神秘よりマネーの魅力にとりつかれたらしい。彼が今度のプロジェクトの指揮を執る。彼らは2週間ほど前から、このホテルに泊っている。当然、地震の時にもいた」

 空港で買ったと言って、ロバートは新聞を差し出した。日本で出ている英字新聞だ。

〈日本を逃げ出す外国人。東京直下型地震動の恐怖〉の見出しが目に飛び込んでくる。地震の後、東京在住の外国人約7000人が、成田国際空港と羽田に押しかけて出国し、約2万人が関西方面に避難した、とある。

「一般的に言うと、アメリカ東部の人間は地震に慣れていない。東部はほとんど地震がないんだ。だからちょっとの地震でも震え上がり、逃げ出す。ハンターはニューヨーク、ロッジはボストン出身だ。典型的な東海岸の人間だ。ところが彼らと彼らが連れてきたスタッフは、地震の後も日本、それも東京を離れる気配はない」

「東京に大した被害がないことが分かったからだ。原発もないし、大きな建物被害もない。前の震災とは全く違う」

 このホテルにいる限り、揺れもさほど感じなかったのだろう。他の高層ビルと同様に、免震工法がとられている。揺れは4分の1以下に抑えられる。さらに、停電も断水も経験していないはずだ。すべてホテルの予備設備で、節電、節水程度で済んでいるはずだ。

「いや、基本的には同じだ。お前たち日本人は、危機意識に欠けている。東日本大震災の原発事故でも、原発周辺にのんびり居続けてるのは日本人だけだった」