ハンズオンのリーダー像

 「ハンズオン」。この言葉を最初に聞いたのは、たしか1992年のジョージ・ブッシュ(パパのほう)の大統領選挙演説だった。FENで流れていた演説で、ブッシュ大統領(当時)は、やたらと”hands-on”という言葉を連発していた(あと、”Persian gulf”という言葉もしきりに出てきた。このときは選挙前年の湾岸戦争勝利が彼の売り文句だったのですね)。結局、選挙ではクリントンに敗北してしまったのだが。

 奥座敷に引っこんでないで自ら現場に出る。自分の手でやる。ハンズオンというのは古今東西の優れたリーダー、経営者の重要な条件の一つだと思う。

 旧知の辻野晃一郎さんから聞いた話だが、グーグルのCEO(当時)、エリック・シュミットさんも徹底的にハンズオンの人だそうだ。辻野さんはソニーでVAIOやデジタルTVなどの事業のリーダーとして活躍した後、2007年からグーグルに入り日本法人の代表取締役社長を務めた(グーグル退社後は「アレックス」という日本の優れた商材、美しい商品を世界に売り、日本の文化を知らしめ、外貨を稼ぐというヒジョーに明快なコンセプトの会社を創業)。シュミットさんが日本に来た。日本の事業や経営環境のことをとにかくよく勉強している。本質的な具体的な質問を次から次へと繰り出す。帰りの飛行機の中ですぐに自分で詳細な出張記録を書く。オフィスに戻ってきたときにはすでにレポートができていて、たちどころに指示が飛んで実行に移される、という案配だ。

 一昔前の経営者でいうとGEのジャック・ウェルチさん。これも藤森義明さん(現在は住生活グループ社長。以前はGEの上席副社長)から聞いた話だが、まだ藤森さんがGEに転職したばかりの駆け出しのころ、日本に来たウェルチさんから「藤森、これこれについて説明しろ」といきなり要求されて驚いたという。

 GEに入る前の藤森さんは、日本の大企業で仕事をしていた。一社員にしてみればCEOといえば雲の上の人。直接やり取りする機会はまるでない。ところがその何倍も大きなGEのCEOが直接議論を持ちかけてくる。話を真剣に聞いてくれる。CEOとの距離感がまるで違う。「何枚もセーターを着て家の中にいると、外の寒さが分からない。寒さを肌で感じないと経営はできない」というウェルチさんも、やたらにハンズオンの経営者だった。