大物投資家のジム・ロジャーズ氏は昨年、シンガポールに移住。現在、ドルを売り、円とスイスフラン、中国人民元を買い進めているという。百戦錬磨のカリスマにその根拠を聞こう。(聞き手:ジャーナリスト 瀧口範子、『週刊ダイヤモンド』副編集長 麻生祐司)

ジム・ロジャーズ氏
ジム・ロジャーズ●投資家 1970年代に、ジョージ・ソロスの右腕として活躍した伝説の投資家。近年も原油・商品市場の高騰をいち早く予言するなど投資指南役として注目を集め続けている。99年、改造ベンツで116ヵ国を回るギネス記録を樹立。現地を見てものを言うのがモットー。

――今回のドル安は想定内か。

 むろんそうだ。それどころか、ドルの下げ相場はこれからが本番だと見ている。対円でいえば、(1995年に記録した)1ドル79円の更新も必至だ。
 
 もちろん、ドル資産を持つ投資家にとってはおいしい“持ち直し”の時期も訪れよう。ただ、当面のトレンドはあくまで下向きだ。

――その根拠は?

 ご多分に漏れず、サブプライムローン問題、すなわち(米国の)信用バブル崩壊がその根拠だ。近年の信用バブルは米国史上最悪のものだった。膿を出し切るまで、あと5~6年はかかる。

 なにより暗い気持ちにさせるのは、インフレがかくも蔓延しているというのに、FRB(米連邦準備制度理事会)がだらだらと金融緩和を続けていることだ。通貨の価値を下げることで国際競争力を取り戻そうとした国は歴史上いくつもあるが、この方法は短期的には有効であっても、中長期的には失敗する。

 悔やまれるのは、なぜ景気後退をもっと早く起こさせることができなかったかということだ。景気後退には経済システムを正常化させる機能がある。それを恐れ、金融緩和で絆創膏を張ってきたFRBには怒りすら感じる。

――あなた自身、ドル資産の売却は進めているのか。

 まず昨年、長年住みなれたニューヨークの自宅を売り払って、シンガポールに移住した。今も(純粋な為替投資としての)ドルは多少持っている。だが今度ドル高に進めば、全部処分する。本当だ。

――現在買い進めている通貨は?

 円、スイスフラン、それになんといっても中国の人民元だ。

――ただ、中国については、今夏の北京オリンピック以降の景気が不安視されている。

 そう思うなら、人民元を売ればいい。私が買い取ろう。オリンピックと一国の景気を結び付ける議論はナンセンスだ。

――中国経済のバブル崩壊懸念は杞憂ということか。

 そもそもどんな国の経済にも景気の後退局面はある。しかも、それは、前述したように、必要悪だ。中国は今、ひどいインフレに直面していて、それゆえに社会不安が高まっている。調整は当然起こってしかるべきものだ。