誰が世界を変えるのか? 多くの人は、スティーブ・ジョブズのような天才的なクリエーターが変えると思っているかもしれない。しかし、少なくとも社会貢献シーンでは、世界を変えるのは一人の天才のアイデアではなく、「集合知」なのではないかと思う。

 たとえば、社会起業家というものは、ビル・ドレイトンが「発見した」と言われている。それはビル・ドレイトンのアイデアによって生まれたのではなく、彼が「従来のビジネスでもない、慈善活動でもない、何か新しいビジネスの形」が世界中で同時多発的に発生していることを発見し、そのような新しいビジネスを行なっている人たちのことを社会起業家と定義し、カテゴライズした。

 その「発見」により、このような人たちがいることを世界が知り、追従する者が大量に発生した。誰かひとりの天才が社会起業家というスタイルを確立し、それを世界の多くの人が真似たというわけではないのだ。

 ソーシャル・ビジネスの代表格ともいえる「マイクロ・ファイナンス」も、バングラデシュのムハマド・ユヌスが生み出したビジネス・モデルではない。ユヌス率いるグラミン銀行は、バングラデシュで最初にマイクロ・ファイナンス事業を始めたわけではないし、最大の銀行でもない。グラミン銀行より大きなマイクロ・ファイナンス機関は他にもあるし、ユヌス以前にもそのような金融機関はあったというわけだ。だから、ユヌスがノーベル平和賞を受賞したのは、このビジネス・モデルを生み出したからではなく、世界に広めたその功績によるものである。

 ソーシャル・ビジネスなど社会貢献の新しいカタチは世界を大きく変えようとしているなかで、それはどうも、一人の天才による思想やアイデアによるものではなく、数多くの社会貢献を志す人間の集合知によるものだと、筆者は思うわけだ。

コワーキング・スペースが持つ
コラボレーションの可能性

 このことは、ソーシャル・イノベーションに関心のある人たちは意識的に、あるいは無意識のうちに気がついているようで、近年、「コワーキング・スペース」への関心が急速に高まっているのもそれが理由ではないかと思っている。

 コワーキング・スペースとは、多数の人間が共同して使うオフィス・スペースのことだが、シェア・オフィスとどう違うのかと質問されることも多い。たしかにコワーキング・スペースとシェア・オフィスは形態的にはまったく同じだ。ただし、そこに集まる人たちの意識が違う。