「県も県だが、JALもJAL。これでは正直者がバカを見ることになります」。

 怒りを抑え切れずにぶちまけたのは、全日本空輸(ANA)の岡田晃・執行役員企画室長。しかし、言葉をぶつけた相手は「ご理解賜りたい」とひたすら繰り返すだけだったという。2月8日の午後、静岡県庁内でのひとこまだ。

 2月4日にレポートした静岡県による福岡便への緊急支援策が大きな波紋を呼んでいる。

 静岡県は日本航空(JAL)の静岡―福岡便(1日3往復)の実質搭乗率を上げようと、緊急の利用促進策を2月から3月末まで実施している。約8000万円の県費を投じ、春休みの若者を対象とした福岡格安ツアーなどへの補助を行う。対象者は先着で1万1000人にのぼる。一社一路線のみを税金で支援する異例の施策である。しかも、県庁あげての年度末の一大事業だ。

 こうした県の緊急支援策に対し、静岡空港に定期便を就航させているJAL以外の航空会社が異議を申し立てた。「公正・公平であるべき市場の競争環境を大きく歪めるもの」と、県に抗議したのである。

 ANAの役員が本社から静岡県庁に駆け付けたのも、このことだった。

 応対で出た岩瀬洋一郎副知事にANA側は二点の申し入れを行った。ひとつは、緊急対策の即時中止。もう一点は、搭乗率保証に関してJAL側と改めて交渉すべきとの提言だ。JALは静岡空港からの3月末での撤退を一方的に決定したが、これは搭乗率保証制度導入の際に結んだ覚書の信義則に反するもので、本来、JALは保証金の受け取りを辞退すべきものとの考えである。さらに、そうした会社に特別な支援策を新たに構じるのは、おかしいと指摘したのである。

 こうしたごく当たり前の主張に対し、静岡県側は「今年度限りの取り組みで、特定の航空会社を支援する意図ではない。ご理解賜りたい」と、お役人答弁に終始したという。どうやら、自分たちの施策が市場を歪める作用につながるとの意識を全く持っていないようなのだ。