「緘黙(かんもく)」という言葉から、当コラムにアクセスしてくる人たちが増えている。

「緘黙」とは、ある特定の場面になると、何も話せなくなる状態のことで、「場面緘黙症」とも呼ばれている。

 なかには、特定の場面だけでなく、家族も含めて、すべての場面において話せなくなる「全緘黙(症)」の状態になる人もいる。

 安定的にアクセスされ続けているのは、そんな「緘黙」から、長期間にわたり「引きこもり」状態になる人が、公の場でカミングアウトすること自体、初めてのことだったからだろう。

 そして最近、それまでは、まったく存在が知られていなかったにもかかわらず、実は潜在的に多いかもしれないことがわかってきた。

 今回は、そんな家族の話を紹介する。

「大人になれば自然に治る」
その言葉を信じてきたが…

 70歳代の父親Aさんの息子は、30代半ば。中学生のときから「全緘黙」になり、以来、およそ20年にわたって、引きこもり続けている。

「あまりモノが言えず、いろいろな場面で、いろいろ工夫を重ねてきました。結局、社会的なつながりという面では、幼稚園に通い始めたときから現在に至るまで、同じ問題を引きずったままなのです」

「緘黙」というと、これまで「子どもの問題であって心配いらない。大人になれば自然に治る」と、専門家から言われてきた。

 ところが、20年経っても、状況は何も変わっていない。それどころか、大人になると、学校の問題ではなくなり、本人の一生の問題に変わる。

「私が死んだら、この子はどうなるのか? 生活する能力がないのに…」

 と、Aさんは、途方に暮れる。