昨年の自殺者は3万0651人に上り、14年連続して3万人を超えた。特に震災後の5月に急増、前月との比較では年代別で30代が44%、職業別では「被雇用者・勤め人」が40%増加した。動機、原因別では男性の「経済・生活問題」が27%増だった。

 この発表の数日前、英医師会雑誌「BMJ」に北里大学医学部公衆衛生学の和田耕治氏らの報告が掲載された。それによると、30~59歳の日本人男性の死亡率は1980年代を通じ改善されてきたが、管理職や医師等の専門職に限ると、90年代後半の5年間に7割近くも悪化したというのである。

 同氏らは80~2005年の人口動態統計や国勢調査の結果を分析、30~59歳の男性の死亡率を管理職、専門職、その他事務・労務職に分け、比較した。その結果、95年から管理職と専門職のみが急上昇。2000年を境に、その他の職種の平均死亡率を一気に上回る結果となった。その後、専門職は下降気味だが、管理職は依然として上昇している。

 95年といえば、中小金融機関の破綻が相次ぎ、不良債権が表面化。97~98年の大手金融機関破綻への序曲が奏でられていた時期。死亡原因を見ると、やはりというか無念というか、管理職の死亡率を押し上げているのは自殺。しかし同時に、心血管疾患、脳卒中、がんの3大疾病と交通事故など不慮の事故死も上昇していた。

 和田氏らは景気低迷の影響で職場の労働環境や雇用形態が激変し、そのストレスが管理職を直撃したと考察している。第一、日本は一般労働者より管理職の労働時間が長い、世にもまれな国なのだ。ストレス解消のための過食、アルコール多飲、運動不足や肥満は管理職を緩慢な自殺へ追い込んでいる。

 この4月から改正労働基準法が施行、月間60時間を超える時間外労働について割増賃金率の引き上げが行われる。しかし、医学的にいうなら疲労・ストレスの蓄積が致命的な疾患を引き起こす目安は月間残業時間が50時間前後。過労死認定でも月間45時間以上が一つの基準である。春の人事に一喜一憂する際、「自分の健康」という視点があると見方が変わる。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド