民業圧迫の批判を受けて、民営化後も総資産縮小を迫られているゆうちょ銀行。ところが、民営化からわずか2ヵ月で、早くも「貯金残高拡大」の指令が出され、現場は右往左往している。

 昨年12月3日から28日までの約1ヵ月、郵便局の店頭では史上初の「金利優遇キャンペーン」が展開された。ゆうちょ銀に新たに定額貯金をすると、0.1~0.4%の金利を上乗せするというものだ。

 もっとも、定額貯金を解約して別の郵便局に預け替えしたり、翌日になってから同じ郵便局に預けても「新規契約」扱い。「新規資金かどうかチェックのしようがないし、これでは単に金利優遇コストがかさむだけ」(ゆうちょ銀の窓口職員)という疑問が現場からは上がっている。

 この窓口職員にキャンペーンの意義を尋ねられた幹部は、「とにかく利ザヤが足りない。(定額貯金の)カサを増やせば、展望が開けるかもしれない」の一点張りだったという。

 民営化されたゆうちょ銀にとって、運用力強化は最優先課題の1つ。巨額の資金を集めても、その運用先はほとんどが国債で、その財務基盤は長期金利の動向に大きく左右される。

 しかもピーク時の2000年に260兆円あった郵貯残高は定額貯金の大量満期到来もあって、2007年には187兆円にまで減少した。もはや利ザヤ確保のためこれ以上残高を減らせないというレベルにあるのだ。

 ゆうちょ銀関係者はこう嘆く。「幹部から『郵貯残高を減らせ』と尻をたたかれて、満期を迎えたお客に死に物狂いで投資信託を売ったが、株価暴落で元本割れ。なのに今度は『投信を解約させてでも、貯金を集めろ』。元本割れの投信を今、解約させればトラブルになるのは必至なのに、どうしろというのだ」。

 ゆうちょ銀は年明け後、今度は0.4%の金利上乗せという破格の条件で「退職金キャンペーン」を展開している。最近になって郵便局による投信販売が激減しているのも、こうした動きと無関係ではない。

 郵貯残高が減れば、利ザヤ縮小でじり貧。増えれば増えたで、またぞろ民業圧迫の大合唱。どちらに転んでも喜べない、ゆうちょ銀のジレンマは当面続く。郵政民営化の真価が引き続き問われることになろう。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 小出康成)