観光庁発表の資料によれば、日本人海外旅行者数はここ十数年、ほぼ横ばい状態にある。

 長引く不況の中、旅行業界の主たる顧客であった若者たちの多くは、生活基盤を安定させることすら覚束ない。期待されたシニア世代も、先行き不透明なこの時代、その少なからずは、老後の生活資金不安に頭を抱えているのが現状だ。旅行業界の厳しい現状は、先頃、業界3位の近畿日本ツーリストと12位のクラブツーリズムの経営統合が発表されたことにも象徴されている。

 一方、旅行業界はインターネットとの親和性が高いことも事実だ。旅行に関わる消費者向けEC市場は、2010年の段階で1兆円規模となっており、全業種の14%を占める。旅行会社の取扱高に占めるインターネット販売の比率は約6%とされるものの、異業種からの参入も増えており、今後も競争の激化が予想される。少ないパイをいかに効率良く手中に収めるか、あるいは、従来とは異なるアプローチからの市場開拓が求められているのである。
※ 経済産業省「平成22年度 我が国情報経済社会における基盤整備(電子商取引に関する市場調査)

旅仲間をネットで募集! ソーシャル旅行事業「trippiece(トリッピース)」は究極のマーケットインか?!ユーザー企画による旅行プランが並ぶ「trippiece」。「日本人旅人化計画」と銘打たれた企画者100名の旅行費用無料キャンペーンもユニーク。

 そんな中にあって、スタートから間もないが実績を上げ、旅行業界から熱く注目される旅行サービスがある。それが「trippiece(トリッピース)」だ。

 とはいえ、trippieceは旅行会社ではない。ユーザー同士で旅のプランを練り上げることのできるウェブサービスだ。つまりtrippieceには、決まった旅行プランがあらかじめ用意されているわけではない。「夏だ!海だ!ダイビングのライセンスをフィリピンで!」「タイマッサージ師の資格を取ろう」といったプランは、ユーザーが企画提案したものばかりだ。そこに一定数の参加者が集まると、旅行が実現される仕組みとなっている。

 運営する株式会社trippieaceは2011年3月に、当時中央大学に在学中の石田言行氏が始めたベンチャー企業。「2010年の5月頃、ソーシャルビジネスを行うグラミン銀行やBRACを見学するために“バングラデシュに行きたい!”と、ツイッターなどでつぶやいたところ、10名ほどの方から反応がありました。そこで彼らの意見を参考に旅を作り、H.I.S.にツアー化のお願いをしたことがそもそもの始まりです」(石田氏)

 プランの提案は実に簡単で、「旅のタイトル」「イメージ写真」「旅への想い」の三項目を決めるだけでよい。自動的にプランのページが作成されるので、そこで具体的な予算や日程等をユーザー同士で詰めていく。trippiece側は、企画が固まったツアーを旅行代理店に提案することでコミッションを得る。ユーザーにとっては、独自性の高い企画を旅行会社から共同購入することで価格が抑えられる。あるいは、一人で行くことのできなかった旅を実現できるといったメリットがある。

 ただし、trippieceは、誰かが作成したプランに、たんに相乗りできるサービスというわけではない。最大の特徴は、プランを作成していくプロセスを共有し、出発日までに旅行者同士がすでにコミュニケーションを育んでいる点にある。

 つまり好奇心や関心の近しい仲間たちが、「旅行」というゴールに向かって、あたかもひとつのプロジェクトチームであるかのように協力・調整しながら旅を実現させるのである。旅行そのものはもちろん、出発前からある種の連帯感、達成感をもたらしてくれるところが、従来の旅行サービスにはなかった大きな魅力といえる。「リピート率は40%に上る」(同氏)というデータからも、ユーザーの満足度は極めて高いことが窺える。

 商品の企画開発そのものをユーザーに委ねてしまう――trippieceが実現しているのは、究極のマーケットイン(市場ニーズ対応型商品開発)に見える。これは旅行業界のみならず、他業種においても応用の利くビジネスモデルではないだろうか。

(中島 駆/5時から作家塾(R)