麹町経済研究所のちょっと気の弱いヒラ研究員「末席(ませき)」が、上司や所長に叱咤激励されながらも、経済の現状や経済学について解き明かしていく新連載。第5回は、ノーベル経済学賞受賞の権威が登場、日本経済の三大症状を大胆解決?!します。(佐々木一寿)

 グラグラと地震がくるたびに、麹町経済研究所は大騒ぎになる。3人所帯だというのに、大げさな表現だと思われるかもしれないが、嶋野主任の地震嫌いは5人前なのだ。

「オー、マイ…」

 小さい地震の時には、嶋野が連呼する「オー、マイ…」という言葉に続けて、マネジャーと末席がいろいろ勝手にアテレコして遊んでいた時期もあった*1のだが、3.11を期に、2人はその遊びを封印した。

*1 スパゲッティ、ニュース、ベイビー、ケンイチなどが定番であった

「あの悪夢がよみがえる…」

 嶋野は、地震が収まったあとも、子ウサギのように震えている。さすがに気の毒になったのか、マネジャーは、気を紛らわせようと話題を振った。

「主任、地震で日本の経済はどうなりますか…」

「うーん、今はサプライサイドが混乱しているからバタバタしているが、それが収まれば、日本国民は底力があるから、なんとかなると思うんだがね…」

 末席は、嶋野の言葉に、いつもの主任らしさを感じなかった。そういえば、さっきテレビでエコノミストが言っていたコメントと同じじゃないか。精神の萎縮は思考を狭めることがある、という例は、新古典派が依拠する効率的市場仮説がなぜ成り立ちにくいのかの根拠となりえるな…*2。そんなことを悠長に考えてしまいそうになるが、嶋野主任の正気を取り戻すほうが先決だ、と末席は思った。

*2 新ケインズ派などはモデルを考察する際に重視する

「主任はいつも、需要サイドの元気のなさを気にしていたじゃないですか。それは大丈夫なんですか」

「…」

 嶋野は、楽観したり、悲観したりの表情を2秒ごとに繰り返して*3、決然と言った。

*3 思考実験を実施していると、そのプロセスが顔に出るタイプの人がまれにいる

「微妙かもしれないね。じつは大きな需要の元にもなりえるが、元気を失えば、大きな需要喪失にも繋がりかねない。こうしてはいられない!!」