メニューに書かれた「つるつる細切り もちもち粗挽き もぐもぐ太打ち」の3種類の蕎麦。これが「おざわ」を人気店に押し上げた原動力だ。まずは理屈ぬきでそれぞれの食感を楽しんでほしい。特に日本一と言っても大袈裟ではない太打ちを肴に飲む酒は格別だ。

3つの個性違いの蕎麦を手繰り
浅草の蕎麦屋の粋を味わう

「おざわ」までは、田原町駅からはほぼ一本道だが、いつも回り道をするかどうか迷う。時間があるときには、浅草駅方面から雷門をくぐって行くのも面白いからだ。

 路々に名物のドラ焼、芋菓子、焼き栗、七味唐辛子などの店を見ながらお土産を漁っていく。浅草は女子会では甘み物だけで1本ツアーが立つくらいだ。浅草寺の境内近くからはスカイツリーが眼前にそびえ立っていていい眺めになる。しばし、浅草の賑わいを楽しんで「おざわ」に向かう。

浅草「おざわ」――日本一の太打ちで締める蕎麦屋酒浅草の老舗店を目で見ながら、そうこうすると「おざわ」に着く。浅草らしい粋で瀟洒な玄関があって、暖簾をぽんとはたいて店に入る。

 国際通りを公園六区の交差点方面に進み、老舗の「すき焼き屋」を過ぎ、明治創業の「どぜう」の看板の上がる店の真向かいの路地に入ると「おざわ」が見える。その瀟洒な門構えは浅草の喧騒の渦からは別世界のような静かな佇まいを見せていた。

 玄関をくぐると、いつもの明るい女将の声があって、浅草の蕎麦屋らしい丁寧なもてなしが待っている。どこか、江戸情緒が漂うような風情があって、江戸っ子になりたい気分がした。

「おざわ」は、6年前の2006年に稲荷町からこの地に移り、新規開店した。以来、「浅草のおざわ」といえば蕎麦仲間ではつとに話題に上り、蕎麦特集本が出ると必ずと言っていいほど掲載されるほどに名を上げてきた。

 夕方の店内は開店と同時に蕎麦屋酒を楽しむ客がぽつり、ぽつりと入ってくる。店に入るとすでに3組ほど先客があった。そのうちの2人連れは、週に2回は来る常連の夫婦のようだ。その後も熟年の初見客、ガイド本を持った若いカップル、女性の蕎麦っ喰いの一人客など、いい感じに客たちが訪問する。

 店内は会食の4人テーブル席と2人席が数席あり、1人酒の訪問に6人席の大テーブルも用意されている。

浅草「おざわ」――日本一の太打ちで締める蕎麦屋酒行灯のような照明でアンバーな色調の空間。会食に利用されやすいようゆったりとした間合いのテーブル配置。落ち着いた大人の蕎麦屋酒になるよう配慮されている。