2007年のMacworldで、90分のうちに80回近くも会場を沸かせながらスティーブ・ジョブズが行ったiPhone初披露の基調講演。100年つづいた人種差別問題をわずか17分で動かしたキング牧師の「私には夢がある」。たった4分で米国民の動揺をしずめたレーガン大統領のシャトル事故追悼演説。
共感、感動、鳥肌が立つような興奮――。心が動かされるプレゼンテーションにはどんな秘密があるのだろうか?
世界的な著名人やオピニオンリーダーたちのプレゼン制作を手掛けてきたナンシー・デュアルテ氏がその疑問に答えた注目の著書の邦訳が、このたび『ザ・プレゼンテーション――人を動かすストーリーテリングの技法』と題して日本で発売された。本書には、聴き手の心に訴えかけるプレゼンのエッセンスがあますところなく解説されている。
(文/編集部)

ジョブズとキング牧師のスピーチに隠された共通点とは?

 アップルのスティーブ・ジョブズは2007年のMacworldで初代iPhoneを初披露した。会場につめかけた聴衆に対し、約90分で80回以上も会場を沸かせて製品の魅力を存分にアピールした。

 アメリカの公民権活動家マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師は、1963年のワシントン大行進の際、リンカーン記念館の階段上であの有名な「私には夢がある(I Have a Dream)」のスピーチを行った。

 所要時間はわずか17分。だがこの17分が、エイブラハム・リンカーン大統領が奴隷解放宣言を行った1862年以来100年近くたっても解決しなかったアメリカの人種差別問題を解決に向けて大きく動かした。

 ロナルド・レーガンはアメリカ大統領在任中の1986年1月28日、スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発という痛ましい事故に接した。初の民間人宇宙飛行士となった小学校教諭クリスタ・マコーリフを含む7名の乗組員が犠牲となったこの日、レーガン大統領は当初予定されていた一般教書演説をとりやめ、代わりに追悼演説を行った。

 全米中が衝撃と動揺でただならぬ雰囲気に包まれるなか行われたこの4分ほどの追悼演説で、レーガン大統領は犠牲者の遺族へ哀悼の意を示し、テレビの前で中継を見ていたであろう児童たちにやさしく語りかけ、宇宙開発競争のライバルであるソ連を牽制し、NASA職員をねぎらうことで国内の動揺を鎮めてみせた。

 これら3つの例はいずれも、歴史に残る名プレゼンとしてよく知られている例だ。あなたもいくつかはご存知かもしれない。時代も異なれば立場も見識も違う3名だが、これらのスピーチにはある「共通点」がある。さて、その共通点とは、いったい何だろうか?