先日、米国立がん研究所から延べ40万人の男女を13年間(最長14年)追跡した調査結果が発表された。テーマは「コーヒーと死亡率」。

 報告によると、1日4~5杯のコーヒーを飲む男性は総死亡リスクが12%、女性は16%低下した。はっきり言って「コーヒー党」の生活習慣は喫煙率、食事の内容、運動習慣とも、お世辞にも良好とはいえなかったにもかかわらず、である。死因別では心疾患、呼吸器疾患、脳卒中、外傷や事故などの死亡リスクが減った一方で、がんは低下しなかった。

 具体的な量は男性で、1日1杯飲む人は総死亡リスクが6%低下、2~3杯で10%、4~5杯で12%低下している。6杯以上のヘビーユーザーは10%の低下。1日複数杯のコーヒーで1割程度は死亡リスクが下がるらしい。1割とはいえ、世界中のコーヒー愛好人口を考えれば影響は凄まじい。

 コーヒーは健康によいか悪いか。このテーマでは以前から論争が続いているが、今回の40万人、13年間追跡という大規模調査の結果には「コーヒー否定派」も沈黙せざるを得ないだろう。ただし、研究者は「コーヒーと総死亡率の低下に直接の因果関係があるのか、対象者がもともと健康だったのかは不明」と慎重な姿勢だ。

 コーヒーはイスラム圏からヨーロッパ圏に伝来し、昔から薬用飲料として珍重されてきた。最近は、アルツハイマー病や2型糖尿病の発症要因になるアミロイドの形成を阻止する作用や、女性ホルモンに似た働きをするコーヒー成分が発見されている。カフェインに注目しがちだが、未知の健康成分がまだあるかもしれない。

 社団法人全日本コーヒー協会の統計では2010年の1人当たりコーヒー消費量は日本が3.4キログラム、米国4.11キログラム。平均寿命は日本男性79.6歳、米国男性は75.3歳。研究者の慎重姿勢は「コーヒーを飲んでいれば大丈夫」と勘違いされても困るから、かもしれない。もちろん、日本茶派があわててコーヒー党にくら替えする必要もない。好きでもないモノを「健康のために」飲み下すほうがよほどストレスになりそうだし。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド