現場取材に来る記者は、経営者よりもずっと「若い」ということをご存じでしょうか。多くは20代、30代です。スーツを着てくる人は少なく、髪がボサボサであったり、ヒゲを伸ばしている人もいます。そこで経営者はつい油断をしてしまい、記者の背後にいる「読者」という名の顧客の存在を忘れて、1対1のコミュニケーションをしてしまうのです。共同通信の記者であれば、全国の地方紙合わせると2千万人の読者がいます。

 所属する部署にも留意する必要があります。朝日新聞社会部の記者であれば、朝日新聞の社会面を読んでいる一般生活者が背後にいます。経済部であれば、ビジネスマンが背後にいます。一人の記者の背後には数十万、数百万の読者が控えていることは絶対に忘れないでほしいのです。一人の記者に対応することは、その背後にいる読者・視聴者に対応することであり、一人の記者からの質問はその読者・視聴者からの質問なのです。記者会見となって複数の記者が集まれば、背後は世論そのものになり、記者たちとの対面はまさに世論との対面となります。

「コンプライアンス」だけでは、
マスコミ対応は乗り切れない 

 何か起こった時には、まず弁護士に相談することが多いでしょう。「法的に問題点がなかったかどうか」を最初に確認するのは非常に重要なことです。

 しかしながら、マスコミ対応は法的問題がない、ということだけでは乗り切れません。

 企業のトップがついうっかりと口にしてしまう言葉に「法的には問題ありません」「法律は犯しておりません」という言葉があります。ところが、火災などで被害者が出た場合には、たとえ法律を守っていたとしても、記者会見の最初に「法令は守っていた」と言ってしまったら、その時点で記者を敵に回したと考えておいたほうがよいでしょう。

 理由は、記者とその背後にいる世論にとって、最大の関心事は企業の法令違反ではなく、企業の社会的責任だからです。法令遵守をしていても事故は起こるものです。問題は法令違反かどうか、ではなく、被害者が出てしまったことに対しての社会的責任をどうするのか、ということです。「法律さえ守っていればよいと思っている、社会的責任感が欠如した社長」という印象を持たれたら、広報的には完全な失敗です。