選挙も最終日直前になると、ウグイス嬢や候補者は、「泣き落とし」という戦術を使う。声をからして、今にも泣きそうになりがならの訴えをするのだ。「私を、男にしてください!」とか、「最後の、最後の、最後のお願いに参りました!」という泣き落としの常套句は、みなさんにもお馴染みであろう。

 政治というのは、政策を実行する場所なのであるから、本来の意味からすれば、理知的に、自分がやりたい政策を演説しなければならないはずだ。それを有権者に判断してもらうことが選挙なのだから。

 選挙戦の前半では、たしかにそういう理知的な方法をとる人もいる。しかし、次第に終盤戦にさしかかると、必ずといっていいほど、候補者たちは、「泣き落とし」の戦術を使う。自分がやりたい政策をアピールするより、泣いていたほうが票を獲得できるという見込みがあるからである。

泣いて、相手の
「同情」を引いてみる

 こういう情感に訴える方法は、決して悪くはない。私たちは、泣いている人を見ると、単純に同情してしまい、心が揺さぶられるからである。

 泣いてみるのは、最後の奥の手ではあるが、きわめて強烈なインパクトを持っているのだ。

 私たちは、小さな頃から、「だれかが泣いていたら、助けてあげなさい」という道徳を教え込まれるので、泣いている人を放っておくわけにはいかなくなる。泣いているのに、見てみぬフリをすると、ひどい罪悪感に襲われるからだ。

 こういう泣き落としテクニックは、選挙戦だけでなく、ビジネスでも有効だ。泣いて、泣いて、とにかく相手の同情を引くのである。ひたすら、泣いて、頼む。すると、相手も自分がいじめているような気分になって罪悪感を感じ、その罪悪感を打ち消すために、あなたの要求に応じてくれるかもしれない。