尖閣諸島問題で日中関係がかつてなく冷え込んでいる。その寒波をもろに受けているのが日本の旅行産業だ。中国で反日デモが激化するなか、旅行代理店や宿泊施設で中国人旅行客のキャンセルが急増し、客足が大幅に減っているという。問題はそれだけではない。中国へ渡航する予定だった日本人のキャンセルも増えていることに加え、今後は中国に進出する日系企業がビジネスで不利益を被ることにより、景気が悪化して国内の旅行需要まで冷え込んでしまう怖れもある。しかし、関係者の声を聞くと、中国人が日本を敬遠する背景にあるのは、個人の反日感情だけではないようだ。旅行産業を凍らせる「チャイナ・ブリザード」の現状と正体をレポートする。(取材・文/プレスラボ・宮崎智之)

中国人旅行客の大量キャンセルに
危機感を募らせる旅行産業の関係者

 日本列島で秋が深まるなか、日中関係は一足先に「冬の季節」を迎えている。

 尖閣諸島沖で中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突した現場の動画を、現役海上保安官がYouTubeに流出させる事態にまで発展した、2010年9月の「中国漁船衝突事件」。近年では、尖閣諸島を巡ってこうした日中のいざこざが頻繁に起きているが、足もとで生じている軋轢は、かつてなく深刻な様相を呈している。

 今回の軋轢は、今年4月、石原慎太郎・東京都知事がワシントンでの講演において、都による尖閣諸島の購入を発表したことに端を発している。9月に入り、日本政府が購入に名乗りを上げ、尖閣諸島を国有化しようとすると、中国側のボルテージは一気に高まった。

 その反発は凄まじいものがある。現地では、大規模な反日デモや日本製品の不買運動が発生し、それは日系企業が襲撃されたり、日本車に乗っているだけで石を投げつけられたりする事態にまで過激化している。

 当然、日本国内でも中国に対する反発は強まっており、政府に毅然とした態度を求める声は多い。東京都が尖閣諸島購入を目的に募った寄付金には、約10万件、14億8000万円が寄せられ、国民の関心がいかに高いかがわかる。

 しかし、こうなると懸念されるのが、緊密さを増していた日中の経済交流である。とりわけ日本の旅行産業は、中国における消費者マインドの冷え込みによってダイレクトに影響を被るため、見通しは不透明だ。反日デモ激化の直後から、訪日を予定していた中国人観光客のキャンセルが相次ぎ、国内の旅行代理店や宿泊施設が危機感を募らせる事態となっている。