3月9日、クレジットカード業界に衝撃が走った。トヨタファイナンスがキャッシングやカードローンなどの無担保ローン事業から撤退することを発表したからだ。これにより、今年5月以降に新規発行されるカードからキャッシング機能が外される(海外のATMから現地通貨を引き出せる機能は残す)。また、翌10日には、同じくJR東日本も4月に新規発行するカードからキャッシング機能の取り止めを発表した。

 今やカード会社にとってキャッシングは、ビジネスの要であり収益を支える大きな柱。会社によって異なるが、ある流通系カードでは収益の60%以上をキャッシングに依存している。比較的依存度の低いカード会社でも30%は占めるという。

 ではなぜ、両社はキャッシングの撤退に踏み切ったのか。背景には、改正貸金業法の存在がある。この法律の柱は、グレーゾーン金利(15~20%の利息制限法金利と29.2%の出資法金利の間の金利帯)の撤廃と、年収の3分の1までしか貸し出せない総量規制の二つ。消費者金融と同様に、キャッシングもこの法改正の影響をモロに受けるためだ。

 いくらキャッシングは収益を支える大きな柱といえども、金利の引き下げによって売り上げは落ち込み、反面、貸し倒れの増加や総量規制のためのシステム費用、途上与信などのコストが増大するため収益性は格段に下がる。そのため、「本音では撤退したいが、過払い金返還請求もあるし、少しでも利益が上がるキャッシングはやめられない」(大手カード会社)と話す。

 これらのカード会社とトヨタファイナンス、JR東日本とは何が違うのか。それは、自動車、鉄道という本業が別にあることだ。つまり、カード事業は本業の販売促進という位置づけであり、キャッシングへの依存度も他社に比べて低い。

 とはいえ、トヨタファイナンスの無担保ローン残高は約800億円。金利18%で計算しても軽く100億円を超える収益がある。決して少なくないが、「法改正の主旨は多重債務者や自己破産者をなくすこと。その理由の一つであるキャッシングから撤退することはトヨタグループの企業価値向上につながる」(後藤清文・トヨタファイナンス取締役カード本部長)ことから撤退を決めた。

 今後の課題は、経済が冷え込む中でカード会社本来の事業であるカードショッピングからの収益をいかに上げていくか。ビジネスモデルの転換に踏み切った両社に注目が集まっている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 藤田章夫)