超高齢化時代突入で「老前整理」ブームが到来<br />明るく軽やかな気持ちで“終活”に励む中高年たちピンク色の華やかな表紙も印象的な『老前整理』(坂岡洋子著/徳間書店/税込\1260)

 アラフォーと呼ばれるようになって数年、早くも「老後」を意識せざるを得ない境地に入っている筆者。そんな私が以前から気になっていた書籍がある。その名も『老前整理』(徳間書店)。

「老前整理」とは、自分が老いる前の、気力・体力が充実しているうちに、身辺を見直して、いらないモノを整理しようという考え方だ。一方で、「生前整理」という言葉もあるが、これは相続問題も含めた身辺整理のこと。元気があるうちに、今一度暮らしを見つめ直そうという老前整理は、それとは異なる考え方だ。

 この老前整理を提唱し、同書を執筆したのは、株式会社くらしかる代表で、インテリア関連のコンサルティングを行なう坂岡洋子氏だ。モノに囲まれて汲々としていた人たちが、軽やかにイキイキとした生活を手に入れる実例が多数登場し、それが読者の支持を集めた。そして、ついに10万部を突破。中高年の「生き方指南書」としても注目されている。

 さて、掃除と言えば――ほんの数年前、空前の片づけブームが巻き起こったことは記憶に新しい。書籍の世界にも、ついにミリオンセラーの仲間入りを果たした『人生がときめく片づけの魔法』(近藤麻理恵著/サンマーク出版)、社会現象にまでなった『断捨離』(やましたひでこ著/マガジンハウス)、片づけの哲学を語った『たった1分で人生が変わる片づけの習慣』(小松易著/中経出版)などがある。これらを見ると、掃除や片づけが、もはや「生き方」「人生」にダイレクトに繋がっていることを強く実感する。

 この他に、人生の最終章を意識し出した中高年たちに注目されているものに、「エンディングノート」がある。これは文字通り、人生の終末期にさしかかり、自身の来歴や個人史、銀行口座や保険などの忘備録、入院に関する希望、財産・相続に関する思い、そして葬儀の希望などを綴り、家族に託すものだ。書店には様々な種類が並び、その注目度の高さを表している。

 さらには、エンディングノートをそのままタイトルに冠した映画も話題になっている。映画『エンディングノート』は昨夏に公開され、監督の砂田麻美氏は、映画部門で「芸術選奨 文部科学大臣新人賞」を受賞するなど、話題を集めた。「わたくし、終活に大忙し。」というキャッチフレーズも印象的だった、砂田氏の実父・砂田知昭氏を追ったドキュメンタリー映画である。

 猛烈営業マンだった父は、40年以上勤めた会社を67歳で退職。その直後に胃がんが見つかったときには、ステージ4まで進行していた。仕事でも「段取り」を重視した彼らしい人生の幕の引き方が、多くの感動を呼んだ。

 このように、“終活”に勤しむ層が増えていることは、日本が超高齢化社会に突入した象徴と言える。なおかつ、件(くだん)の『老前整理』や映画『エンディングノート』が、どこか軽やかさや明るさすら漂わせるように、日本人が老いや死を自然体で受け止める土壌ができつつあるようにも感じる。

 いよいよ人生の折り返し地点に入った筆者も、そう遠くはない老境に備え、身辺をできるだけ軽くし、快適な老後を迎えたい……と強く望むばかりである。

(田島 薫/5時から作家塾(R)