一時は社会問題にまで発展した為替デリバティブ問題だが、金融ADRの紛争案件は昨年度をピークに減少。一般的には、銀行と企業の“もめ事”は収束しつつあるとされる。しかし、その裏で実は、企業が銀行を訴えるケースが増えてきている。今、為替デリバ問題は、新たなステージに突入しようとしている。

 今、銀行業界に一つの懸念が生じている。今年に入ってから、過去に契約した為替デリバティブなる金融商品をめぐり、企業が銀行を訴えるケースがひそかに、しかし着実に増加しているのだ。

「社長、いい話がありますよ」

 2004~07年当時、円安による輸入価格高騰に苦しんでいた企業に銀行が差し出した商品こそが為替デリバだ。円安が続いてもコスト負担が増えないよう、あらかじめ決めた価格で外貨を売買する契約を結び、為替の変動リスクに備えようというものである。

 例えば1ドル=100円で毎月10万ドル購入する権利を取得したとする。この場合、実勢レートが1ドル=120円と、それより円安に振れたとしたらもうけものだ。実勢レートより1ドル当たり20円も安く調達でき、A社は全部で200万円も得することになる。

 しかし、実勢レートが1ドル=80円と円高に振れてしまったら目も当てられない。何しろ、為替デリバでは通常、A社が「銀行からドルを買う権利」を取得すると同時に「銀行がA社にドルを売る権利」を銀行に渡しているのだ。今度は30万ドルを1ドル当たり20円も高く調達しなければならず、600万円もの損失を被ることになる(下図参照)。

銀行業界に“悪夢”が再来<br />増加する為替デリバの訴訟案件