デジタル化がグローバルなビジネスとコミュニケーションの世界を大きく変え、ネットワーク化された個人の情報発信がブランド構築に大きな影響力をもちはじめた。
長年、事業・ブランド・マーケティング戦略のコンサルタントとして企業をサポートしてきた小西圭介氏は、ソーシャル時代のブランド構築の中核となる概念として「ブランドコミュニティ戦略」を提示し、企業にとって、生活者主導の時代に対応した「ブランディング」の再定義と、それにもとづくブランド戦略の再構築が急務であると訴えている。
今回、ブランド戦略の世界的権威で、小西氏がかつて勤務した米国プロフェット社の副会長でもあるデービッド・A・アーカー氏との対談が実現。新たなブランド・リーダーシップをどう発揮すべきか。今日的な課題を語り合っていただいた。

ビジネスとマーケティングの焦点を、
顧客主語に転換しなければならない

小西:まず、生活者主導の時代のビジネスやブランド戦略はどうあるべきかという点ですが、世界的にデジタル化が進み、ソーシャルメディアが国民的なインフラとして普及している米国の事情も踏まえ、今日的な環境変化を、どのようにとらえていらっしゃいますか。

【デービッド・A・アーカー氏×小西圭介氏対談】(前編)<br />企業が一方的にブランド価値を提供し、<br />メッセージやイメージを管理する時代は終わったデービッド・A・アーカー
(David A. Aaker)
カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネス名誉教授。プロフェット社副会長。ブランド・アイデンティティの概念を提唱し、ブランド研究の世界的な権威として知られる。1996年、マーケティング領域で目覚ましい業績を残した研究者に贈られる「ポール・D.コンバース賞」を受賞。元電通のエグゼクティブ・アドバイザーでもある。

アーカー:ブランドの重要性はますます大きくなっている。ただし、ビジネスの本質的な部分はそれほど変わっているわけではない。ブランド・アイデンティティ(ブランドのめざすべき姿)を定め、社内外に共有しながら価値創造を実現する企業・事業活動を戦略的に遂行していく、といった点は同じだ。ビジネスの本質は変わらないにしても、ブランドコントロールのあり方は大きく変わっているのが、今日的な環境変化の一つだ。

小西:特に米国では生活者のパワーの強さ、ブランドに関わる評判や発言力、情報コンテンツの発信力の大きさを感じます。それをうまく味方につけられるかどうかで、ブランドの競争力も変わってくるのではないでしょうか。

アーカー:もはや企業が一方的にブランド価値を提供し、メッセージやイメージを管理する時代ではない。企業は生活者中心のメディアと関わり、生活者どうしの会話やコミュニティをサポートする役割を引き受ける必要がある。
ただし、やみくもにウェブサイトやソーシャルメディアでの施策を展開すればいいというものではない。大事なのは、ビジネスとマーケティングの焦点を「企業・製品主語」から「顧客主語」に転換することだ。