フィリップ・クロスビー フィリップ・クロスビーは、品質運動が経営や製造業を革新する力として盛り上がりを見せ始めた時期に『クオリティ・マネジメント―よい品質をタダで手に入れる法』(Quality is Free)を執筆した。

 この本はベストセラーとなり、1980年代には、クロスビーはフォーチュン500社の40%の企業に対して品質管理に関するコンサルティングを行なうまでになっていた。

 コンサルタントとしての彼が高く評価された理由の1つは、品質マネジメントの概念を理解しやすい言葉で語る能力であり、この能力は明らかに40年以上にわたる実際のマネジメント経験の賜物であった。

人生と業績

 クロスビーは1926年にウェストバージニア州で生まれた。ウェスタンリザーブ大学を卒業した後、朝鮮戦争に従軍した。1952年に組立ラインで働き始め、マーティンマリエッタ社の品質管理マネジャーになり、ZD(ゼロ・ディフェクツ=欠陥をゼロにすること)の概念を開発した。その後、昇進を重ね、ITT社の品質担当副社長兼ダイレクターを14年間にわたって務めた。

 『クオリティ・マネジメント―よい品質をタダで手に入れる法』(Quality is Free、1979年、邦訳は1980年発行)に対する反響の結果、クロスビーはITTをやめ、その本に記した品質管理の原則と実践方法を教えるために、フィリップ・クロスビー・アソシエーツ社を設立した。

 1985年にはこの会社の市場価値は3000万ドルになっていた。1991年にフィリップ・クロスビー・アソシエーツ社を退き、上級管理者の能力開発コンサルタント会社キャリアIV社を興した。クロスビーは2001年8月に死去した。

思想のポイント

 品質は実態のないものでもなければ、測定できないものでもない、とクロスビーは強調している。品質は戦略的な必須条件であり、数値化して企業の業績改善に活かせるものである。従来の品質管理手法で達成した「許容範囲の」品質や欠陥のレベルは、クロスビーにとっては成功の保証どころか失敗の証拠に他ならない。目標とすべきなのは、最初から、いつでも、納期内に要求条件を満たすことである。したがって、重要なのは予防策であり、検査や手直しではない。

 クロスビーの品質に対する考えは実に明快だ。彼によれば、良い品質、悪い品質、高品質、低品質などというのは概念としての意味をなさず、品質とは「要求条件への合致」である。つまり、製品はその会社が顧客のニーズに基づいて自ら設定した要求条件に合致していなくてはならないということだ。彼はまた、品質問題のおもな責任は、作業者ではなくマネジメントにあり、品質活動の性格づけはマネジメントが上から行なうものであると考えていた。