エネルギー問題に加え、一斉に更新時期を迎えているインフラ危機。医療、年金をはじめとする社会保障制度も大きく揺らいでいる日本。高度経済成長期に作り上げた様々な社会の仕組みがあらゆるところで制度疲労を起こしており、まさに課題先進国ニッポンといえる。こうした閉塞感を打ち破るにはどうしたらいいのか。安倍政権の誕生で政治に期待をする声も多い。しかし、日本の本当の底力は企業にあるのではないか――。
 そこで今回は、企業再生のスペシャリストとして日本企業の強みと弱みをよく知る冨山和彦氏と、長年、社会的課題にかかわる大規模なシステム開発プロジェクトを手がけてきたNTTデータの山田英司氏の2人が、「課題先進国ニッポンのビジネスチャンス」について語る。前編、後編の2回にわたってお届けする。
(取材/構成/執筆:ダイヤモンド社 出版編集部 宮田和美)

課題先進国ニッポンの現実

山田英司(やまだ・えいじ)  株式会社NTTデータ
代表取締役副社長執行役員
パブリック&フィナンシャルカンパニー長
1955年北海道生まれ。78年日本電信電話公社入社。88年からNTTデータ通信株式会社(現:株式会社NTTデータ)。人事部長、グループ経営企画本部長、金融ビジネス事業本部長等を経て、現在は代表取締役副社長執行役員 パブリック&フィナンシャルカンパニー長を務める。

山田 昨年末には自民党が政権に返り咲き、いま巷ではアベノミクスの一挙手一投足に大きな注目が集まっています。円高が緩和され、株価も上昇。経済状況に少し明るい兆しが見えてきました。しかし、2年前の東日本大震災により浮き彫りになった「エネルギー問題」は、脱原発の是非をはじめ、再生可能エネルギーの普及目標など、日本のエネルギー未来像はいまだはっきりと示されていません。また、昨年12月には、中央高速道路笹子トンネルの天井崩落事故が起こり、9名の方が犠牲に。この事故は、高度経済成長期にいっせいに整備されたインフラが耐用期限を迎えているという事実、つまり「インフラクライシス」が身近に迫っていることを私たちに突き付けました。さらには、「少子高齢化」という、日本の国力に直結する、非常に複雑で大きな問題も横たわっています。それにより、医療、年金をはじめとする社会保障制度そのものも大きく揺らいでいます。

 これまでに作り上げた社会の仕組みが制度疲労を起こし、数多くの社会問題となって表面化している日本のこの状況を「課題先進国ニッポン」と指摘する識者もいます。こうした、一見八方塞がりにも見える日本の現状を、冨山さんご自身はどのように捉えていらっしゃいますか?

冨山和彦(とやま・かずひこ) 株式会社経営共創基盤(IPGI) 代表取締役CEO ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役社長を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、IPIGを設立、数多くの企業の経営改革や成長支援に携わり、現在に至る。1960年生まれ、東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。

冨山 エネルギー問題、インフラ危機、少子高齢化など、それらの問題は独立した問題ではなく、複雑に絡み合った問題であると考えるべきだと思います。経済が高度に発達し、とりあえず食うには困らなくなってきたからこそ起こる問題です。ある意味、成熟した国では、昔の常識が通用しなくなってきています。ひとつ例を挙げると、先進国での貧困問題。かつては貧困といえば飢餓のことを指しましたが、たとえばアメリカでは、貧困層のほうが肥満率が高いと言われています。もうひとつの例は、少子化です。かつて、マルサスの人口論では、「豊かになると人口が増える」が定説でした。しかし、いまは違う。経済が高度化すると、なぜかどんどん少子化してしまう。この謎を解き明かしたら、たぶんそれだけでノーベル賞ものだと思うんですけど(笑)。でも、現実としてそうなんですよね。

山田 ただ、先進国のなかでもアメリカはいまだに人口が増え続けていますね。ヨーロッパのなかにはフランスのように少子化対策に成功したと言っている国もありますが。