不況下の節約志向を受けてビール系飲料では、価格が割安な新ジャンル、いわゆる「第三のビール」の独り勝ちが続いている。

 酒税の安い新ジャンルの価格は、たとえばコンビニエンスストアなら350ミリリットル缶1本で140円前後。210円前後のビールよりも3割以上安い。この低価格が受けて、新ジャンルの売れ行きは大幅に伸びている。

 さる5月の課税数量で見れば、ビール系飲料全体では前年同月比で3.1%減。ところが、カテゴリー別ではビールが7.3%減、発泡酒11%減に対して、新ジャンルは13.6%も増えている。新ジャンルはこれで15ヶ月連続増。昨年には発泡酒を抜き、今やビール系飲料市場の29%を占める。

 縮み続けるビール系飲料市場を支える新ジャンルだが、気になるのがビールメーカー各社の収益。高価格のビールから低価格の新ジャンルにカテゴリーシフトが進めば、ビールメーカーの売上高も利益も縮む懸念が当然出てくる。

 だが、「じつはビールよりも新ジャンルのほうが儲かる」(業界関係者)のだという。というのも、350ミリリットル缶を例に取れば、ビールには77円の酒税がかかっているのに対し、新ジャンルには28円しかかかっていない。ビールと新ジャンルの価格差約70円のうち、酒税の差が約50円あるため、実際の価格差は約20円しかない。

 加えて、価格が高騰した麦芽やホップを大量に使うビールに対し、新ジャンルはそうした原料の使用を抑え、いろいろな副原料を使うことができる。やりようによってはコストを抑え、ビール以上の利益を生み出すことが可能になるわけだ。

 新ジャンル好調によって、ビール2強の明暗が分かれている。

 シェアトップのアサヒビールの場合、「新ジャンルはビールよりも儲からない」(関係者)。新ジャンルの「クリアアサヒ」が大ヒットしているが、それでも出荷量はスーパードライの5分の1以下。「スーパードライ」1ブランドだけでビール系飲料の売上高の約6割を稼ぎ出す、抜群の生産効率が今は裏目に出ている格好だ。

 一方、アサヒを猛追するキリンビールは、新ジャンルのトップブランド「のどごし」を擁しており、売上高の約3割を新ジャンルで占める。こちらは、新ジャンルが儲け頭になっていると推測できる。

 この夏商戦も、メーカー各社が新ジャンルの新ブランド投入、既存ブランドのリニューアルを計画しており、とりわけ新ジャンルが主戦場となるのは間違いない。

 だが、ビールメーカーにとって頭が痛いのは、新ジャンルの購入層のブランドロイヤリティは低く、すぐ他のブランドに乗り換えられてしまうことだ。

 トップの「のどごし」と、最近2位の座を固めつつある「クリアアサヒ」を除けば、毎月、猫の目のようにランキング上位の顔触れが入れ替わる。

 新ジャンルの新商品で翌年も生き残るのは数ブランドしかなく、その多くは開発費、宣伝費すら回収できていない。市場が伸びているからといって、おいそれと新ジャンル一本で勝負をかけるわけにもいかないわけで、手放しでは喜べないのが現実だ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 小出康成)