自民党の国防部会と安全保障調査会が「新・防衛計画の大綱 」の決定に向けて、敵基地の攻撃能力強化や海兵隊的機能付与を提言している。だが、議論の前提となる彼我の能力に対する知識・理解の不足がはなはだしい。そこには、法的に可能かどうかの視点が先行し、実現可能かどうかという「成算」の視点が欠けている。

 政府は今年末までに「新・防衛計画の大綱 」を決める予定だ。この「大綱」は約10年先まで見通して、防衛政策の基本的な考え方や、防衛力の特性、その規模などを定めるものだ。

 自由民主党の国防部会と安全保障調査会は5月30日の合同会議でこの「大綱」への提言を決め、6月11日安倍首相に提出したが、その中には北朝鮮の弾道ミサイルに対抗するため「策源地(敵基地)攻撃能力の保持」を検討することや、尖閣諸島を念頭に「自衛隊に海兵隊的機能(上陸作戦能力)を付与」などが含まれている。安倍首相はすでに国会でこれらの点について積極的答弁を行っており、この提言が「大綱」に反映される可能性は高い。だがこれらは軍事的に考えて、ほぼ実行不可能な提言だ。

特定できないミサイルの位置

 日本に向けて、まさに核ミサイルが発射されようとするとき、それを攻撃、破壊することは自衛の範囲内ではあるだろう。相手が拳銃を向けたとき、こちらがすかさず発砲、射殺しても、状況によっては正当防衛が成立するとの同様だ。だが「合法だからやるべきだ」というのは戦後の日本に特有の発想で、防衛問題を考える場合には「成算」の有無、勝つか負けるか、をまず考えねばなるまい。

 日本では憲法問題があることに加え、平和が70年近く続いたため、戦争を現実の問題として具体的に考えにくくなり、もっぱら国内の法律論で軍事問題を論じる特異な防衛論が発達した。オーストラリアの有袋類に似ている。企業が新事業を始めるか否か、を考える際「採算が合うかどうか」よりも「定款に合うか否か」を論じるような形だ。

 現実的に考えれば、攻撃しようにも北朝鮮の弾道ミサイルの詳しい位置が分からない。日本政府は北朝鮮の人工衛星打ち上げ用の巨大な「テポドン2」(全30メートル、重量92トン)を「ミサイル」と称するから、北朝鮮東岸の舞水端里(ムスダンリ)や西岸の東倉里(トンチャンリ)の固定発射台で何週間も掛かって組み立てて、ミサイルが発射されるイメージで対抗策を論じる人も出て来るが、これらは米国の「ケネディ宇宙センター」や日本の「種子島」の廉価版のような施設で、こんな所を叩いても無意味だ。