景気が悪化してくると、選択と集中で乗り切ろうとする企業と、本業の減速を他で補おうとして多角化を考える企業と2つの戦略が出てくる。選択と集中の(短期的な)効能についてはこの10年ほどで多くの日本企業が実証した通りであるので、あまり異論のないところだと思う。

 ただし、日本企業の「選択と集中」の成功は、景気が回復しつつある局面でのお話であり、今のような景気悪化の入口局面での話ではなかったことに留意する必要がある。むしろこれから景気悪化が始まるという局面では、なるべく多くの事業を抱えて、どれか1つの事業のマイナスを他で捉えるようにしたいと考える経営者が増えると思われる。多角化経営そのものである。

 そこで、今回は企業経済学の授業で学んだ、多角化経営の是非についてのお話である。正確にはどういう状態の多角化経営なら株式市場から評価されるか、という論点だ。

 大学院の授業では論文を扱うことが非常に多いが、今回も"Competition from Specialized Firms and the Diversification - Performance Linkage"という今年の4月にJournal of Financeに掲載された論文をもとに議論が行なわれた。

「多角化プレミアム」
はありえる

 論文の要旨は、専業企業の数が少ない業界、あるいは、専業企業の市場シェアの合計があまり高くない業界では、多角化経営企業の方がパフォーマンスがよい、という内容である。一般的に広く理解されているのは、「多角化(コングロマリット化)=株価ディスカウント」という構図だが、それは業界によって異なり、実は「多角化(コングロマリット化)=株価プレミアム」となるケースもあると指摘している。そして、どういうケースなら株式市場から評価されてプレミアムが存在するのかを実証研究で示したものである。

 「多角化ディスカウント」はどの業界でも普遍的に存在するという前提を覆し、広く懐疑的に見られていた「多角化プレミアム」が存在する業界、状況が示されたことは非常に画期的なことだと思う。我々は企業の多角化経営の評価の指標を得たのである。

業界内の専業企業の数と
それらの市場シェアがカギ

 具体的にいくつかの興味深いデータが掲載されているが、私が注目したのは、業界内の専業企業が4社以下だと多角化経営企業の方がパフォーマンスがよく(多角化プレミアム)、5社以上だと多角化ディスカウントであると実証されていたこと。また、市場シェアに関しても、専業企業の合計シェアが25%というのがボーダーになっており、それ以下だと多角化経営に軍配、それ以上だと専業企業に軍配と明示されていたことである。