暴露本を読みながら考え込んでしまった。書かれている内容が事実だとすれば、今どきのブラック企業も真っ青な職場環境がそこにあったからである。

「休めない」「眠れない」なんていうのは、序の口だ。低賃金で長時間労働を強いられた上、仕事に必要な経費も自腹で払わされ、ホームレス生活を余儀なくされた人もいるという。男性ならば暴力、女性ならセクハラ、あるいはそれ以上さえも覚悟しなければならない、とくれば、これはもうブラックというよりスーパー、いやハイパーブラックな世界である。

「そんな過酷なお仕事に耐えられるのはどんな人物なのか?」

 にわかに気になり、テレビの制作現場で働くアシスタントディレクター(AD)、松井香織さん(仮名、29歳)に会いに行った。

じつは外部スタッフが支える
テレビ番組制作の現場

 向かったのは都内某所にある映像センターの編集室だ。窓のない壁にズラリと並ぶモニターと編集機材。それらに向かい、複数のオペレーターとそのアシスタントが黙々と作業をしていた。

「是非ともこの雰囲気を味わってもらいたくて」

 と、松井さんがインタビューの場所に編集室を指定した理由を説明する。Tシャツにパーカー、化粧っけなしのスッピンである。

 奥の椅子に腰掛けているのは、番組を担当するディレクター氏。「映画で言うと監督さんにあたります」と、松井さんが紹介してくれる。「ま、超かっこ良く言うと、そういうことになりますね」とディレクター氏が笑う。見る限り、怖くはなさそうな方である。

「ところでみなさん、同じ会社の人ですか?」

「いいえ、所属はいろいろですね。私の場合は派遣会社に登録していて、番組のチーフディレクターに呼ばれてここに参加するようになりました。ディレクターのイチローさん(仮名)も同じ。でも、一緒に仕事をするのは今回が初めてになります」

 たとえば、Aというテレビ局でBという新番組が始まるとしよう。「ついては、ディレクター3人とAD2人を派遣してほしい」という依頼が派遣会社に持ち込まれ、会社はそれに応じて人を出す。ディレクターを束ねる役目のチーフから「誰それが欲しい」と指名されることもあれば、そうじゃない場合もある。いつ、誰と組むか、は予想不可能。「まったくの運」だという。

 テレビ局内にももちろん、プロデューサーやディレクターはいる。しかし、彼らは管理業務が主な仕事だ。実際に現場で動くのは、松井さんらのような派遣社員か下請けの制作会社社員、もしくはフリーランス、である。