企業年金の積み立て不足額全額を貸借対照表に計上する「即時認識(全額オンバランス)」が2014年3月期決算から適用される。さらに、アベノミクスによる環境変化など、大きな転換期を迎えた今、企業はどのように対応すればいいのか。報酬・退職給付・福利厚生制度、資産管理などの総合コンサルティングファームであるタワーズワトソンの代表取締役社長兼インベストメント部門リーダー・大海太郎氏に聞いた。

ガバナンスが
十分に効いていない企業年金

──確定給付型企業年金の積み立て不足額全額を貸借対照表に計上する即時認識(全額オンバランス)が2014年3月期から適用されますが、これによりどのような課題が明らかになるでしょうか。

 積み立て不足額、つまり年金債務の貸借対照表への計上(オンバランス)は、2000年4月から始まっています。ただし、将来の割引率や従業員の死亡率、退職率の変更などによる「未認識債務」を計上しなくてもよいことになっていました。しかし2014年3月期からは未認識債務も含めて全額をオンバランスしなければなりません。

代表取締役社長 マネージング・ディレクター
インベストメント部門リーダー
大海 太郎(おおがい たろう)
日本興業銀行にて、資産運用業務等に従事した後、マッキンゼー・アンド・カンパニーにおいて本邦大手企業、多国籍企業に対して経営全般の様々な課題についてアドバイス。2003年にタワーズワトソンに入社し、2006年よりインベストメント部門を統括。これまで日本の年金基金を中心とした機関投資家向けにガバナンスの構築や運用方針の立案や実施、運用機関の調査・評価に携わり、業界の発展に尽力。2013年7月より現職。東京大学経済学部卒業。ノースウェスタン大学にて経営学修士(MBA)取得。ファイナンス専攻。公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

 当然、オンバランスによる自己資本の減少、それに伴う自己資本の増強策などといった資本政策が課題となりますが、より重要なのは、企業年金の運営や運用の体制について場合によっては見直しや強化が必要になることです。

──具体的にはどのようなことですか。

 大手企業では、年金の規模が数百億円から数千億円に達しているケースがあります。これは見方を変えれば、企業にとり年金制度は数百億円から数千億円規模の事業部門を抱えていることと同じです。ところが、担当セクションである人事や経理などは、それぞれの立場でしか年金を理解しておらず、経営トップもまた「よくわからない」といった状態で、全貌を把握する人がいない。“年金事業部門”のガバナンスが十分に効いていないのです。それでいて、運用成績は、相場環境によって大きく振れます。いわば巨大な事業部門が、責任者も戦略も明確でないままに、嵐の中にたなざらしにされている状態です。

年金関連担当者が
“共通言語”で戦略を練る

──確定給付型年金から確定拠出型年金(DC)に切り替える企業が増えています。

 DCでは、退職後の資金手当ては自己責任となるのですから、企業は年金資産運用に関わるリスクを取る必要がなくなりコストも大幅に削減できます。しかし、すでにDCを始めている人たちの実態を見ると、定期預金などの元本確保型の商品の割合が高く〝運用〟になっていません。こうした状態を放置していては、定年退職後には生活資金が足りなくなる人が続出する恐れがあります。

──従業員福祉からも確定給付型のあり方を再考すべきだと。

 単純に確定給付型をなくしてしまえば済むことでしょうか。人材の確保や従業員福祉の向上を真剣に考えるならば、確定給付型年金は多くの日本企業に適した優れた制度であり、そこに課題があるのならば年金のあり方や運営体制などを根本から組み立て直すべきではないでしょうか。一部をDCにするにしても、制度設計のバランスの見直しが求められます。その際に重要なことは、企業年金にガバナンスを効かせるために、担当部門が統合して共通言語で全体像を検証する体制が必要だということです。

──共通言語づくりをサポートしてくれるコンサルの力が必要ですね。

 当社のPRのようになってしまうのは恐縮ですが、“ひも付き”ではない独立系のアドバイザーは有用だと思います。金融グループに属しているコンサルでは、どうしてもグループの商品やサービスの販売ありきになってしまいます。その点、独立系のコンサルは、顧客本位で課題を解決するサービスを提供できます。顧客、つまり最終投資家とコンサルの利害が一致することが大事で、それがなければ信頼されるパートナーにはなり切れません。

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