牛の糞や下水の汚泥が今、高止まりする原油など化石燃料の代替エネルギーとして熱視線を浴びている。

 たかが牛糞と侮るなかれ。こうした有機性の廃棄物を発酵させると天然ガスとほぼ同じ成分のメタンガスができるのだ。「バイオガス」と呼ばれ、スウェーデンなどではすでに、新エネルギーとしてバイオエタノール以上の広がりをみせている。日本国内でも普及に向けた動きが加速しつつある。

 その実用化に意欲を見せるのが、環境分野に復活をかける商社の兼松だ。今年1月、同社は出光興産など11社で、新会社法で認められた「合同会社」方式によって「バイオガス・ネット・ジャパン」を設立。代表となった兼松が事業化への取り組みをリードしてきた。

 バイオガスの原料はいってみれば、畜産農家や下水処理場、ごみ処理施設から出る単なるゴミ。同じバイオ燃料でも、大量のサトウキビやトウモロコシを使用するバイオエタノールとは異なり、穀物価格の高騰をまねく心配もない。さらに「二酸化炭素の21倍もの温暖化効果があるメタンガスの排出を削減でき、化石燃料の使用減にもつながる、一石二鳥のエネルギー」(兼松事業推進部)。工場内での熱利用をはじめ、将来的には家庭などでの活用も期待されている。

 エネルギー効率の低さが欠点だったが、合同会社ではすでに、精製装置によって都市ガス相当の品質に高められることを実証済み。北海道の畜産農家で出た牛糞をもとに、レストラン「びっくりドンキー」のハンバーグ工場へのガス供給も行ってきた。

 「今後はトータル費用の圧縮が課題だが、理論上はコストダウンの道筋も立ってきた」。そう展望する兼松には、何としてもこの事業を成功させたい理由があった。

 1990年代に経営が急速に悪化した同社は、事業規模を3分の1に縮小する「構造改革」を断行、多くの部門を切り売りしながら再建を図ってきた。結果、経営は持ち直したものの「総合商社」の看板を下ろすかたちに。2008年3月期の純利益は連結で過去10年では最高の190億円を記録したが、資源価格の高騰の恩恵を受け数千億円規模の純利益を叩き出した大手総合商社との差は広がる一方だった。

 バイオガス事業は今でこそ政府の補助金なしには進まないが、潜在的な国内市場規模は2000億円超と見込まれる。地産地消型のエネルギー事業として期待する自治体も多く、兼松経営企画室は「今でこそ注目度の低いニッチな分野ではあるが、将来的には高収益事業に育て上げて巻き返しを図りたい」と力を込める。

 合同会社ではこのほど新たに、輸送コスト削減につながる新型ボンベの開発や、ガス管による一般家庭などへのガス供給の安全性の検証に着手することも決まった。兼松事業推進部は「今は着実にノウハウを積み上げていくことが重要。農家や工場から出たガスをいかに外部に販売していくか、回収、精製、輸送、供給という全体のビジネスモデルを構築しているのは我われだけだろう」と強調する。

 採算ラインに乗れば、2010年中には合同会社を株式会社化する予定。牛糞から生まれたガスが、復活を狙う「元総合商社」、さらには地球環境の切り札となる日も近いのかもしれない。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 山口圭介)