元CIA職員のエドワード・スノーデン容疑者による機密暴露はとどまるところを知らない。1日には、米国家安全保障局(NSA)が米国民や中国だけでなく、同盟国の欧州連合や日本なども監視の対象にしていたことが明らかにされた。

NSAといえば米国の情報機関のなかで最も秘密性が高く、CIA(米中央情報局)よりも謎に包まれている。そのNSAの機密プログラムを暴露したスノーデン容疑者ははたして裏切り者なのか、それともヒーローか。今のところ、米国民の間でも評価は分かれている。

連日メディアを賑わせているスノーデン容疑者だが、そもそもこの事件の最大の問題点は何か。米国の情報活動や安全保障に詳しい専門家に聞いた。
(聞き手/ジャーナリスト 矢部武)

スノーデンは本当に
スパイだったのか

――スノーデン容疑者がNSAの極秘プログラムを暴露した動機は何だと思われますか?

暴露を続けるスノーデン容疑者は<br />裏切り者か、ヒーローか!<br />――ニューアメリカ財団シニアフェロー <br />スティーブン・クレモンス氏に聞くSteven Clemons
ワシントンのシンクタンク、ニューアメリカ財団(NAF)のシニアフェロー。 2011年5月から、米大手オピニオン誌『アトランティック』編集長を兼務。外交、防衛、安全保障などが専門で、とくに情報活動やテロ対策などに詳しく、外国の政府・情報機関との太いパイプを持つ。ジェフ・ビンガマン連邦上院議員(民主党)の経済・国際問題担当政策顧問などを務める。

 彼の発言内容から推測すると、NSAによる秘密の個人情報収集がきわめて大規模に行われていることを懸念し、米国民のプライバシーと人権を侵害していると考え、暴露に踏み切ったのではないかと思います。一方で、メディアで注目されたい、有名になりたいという気持ちもどこかにあったのかもしれないが、それは本人にしかわかりません。

――スノーデン容疑者は最初から機密情報を暴露する目的でNSAの関連会社で働き始めた、との報道もありますが。

 たとえそうだったとしても、彼が暴露した情報の内容を初めから知っていたかどうかは疑問です。おそらく働き始めてから、通話履歴や電子メールなどを収集する極秘プログラムの存在を知り、担当部署に深く入り込んで調べたのではないかと思います。

 その点、彼は他の情報機関から送られたモール(潜入スパイ)ではなく、自分の意志で行動するセルフ・セレクティッド・スパイのように見えます。

――もし彼が暴露を目的に関連会社に入ったのだとしたら、会社の身元調査や米当局のセキュリティ・クリアランス(安全審査)が不十分だったと言えるのではないでしょうか?

 米国にはトップシークレットの安全審査の対象者が490万人、他にも低レベルの審査対象者がたくさんいます。このような状況で安全審査をすべて完璧に行おうとしたら、大変な労力が必要となり、それは非常に難しい。