デジタル時代だからこそ光る、<br />「美文字」の魅力

 仕事はもちろんのこと、他者とコミュニケーションをとるのもPCや携帯、スマートフォンなどを活用することが大半となり、「文字を書く機会が激減した」という声を聞くようになって、何年経つだろうか。なかには、「漢字が書けなくなった」「字がどんどん下手になっていく」という嘆きも、時折耳にするところだ。

 しかし、そんな流れに抗うかのように、ここにきてがぜん、「美文字」が脚光を集めているのをご存知だろうか。

 その一例が、『30日できれいな字が書ける大人のペン字練習帳』(宝島社)など、ペン字練習本シリーズの人気だ。著者である美人書道家・中塚翠涛氏の魅力もあいまって、シリーズ累計200万部に達しているという。

 とりわけ上記の『ペン字練習帳』は、この春の販売部数が前年比10倍に達するなど、今年に入って人気が急上昇している。「30日間」と短期間をうたっている点と、年賀状や領収書など実利的な練習ができる点にあるという。

 さらに、「生涯学習のユーキャン」では、全125講座のうち、「実用ボールペン字講座」が人気ランキングの9位に入っている(2012年1~11月の資料請求数)。1日わずか20分の練習で確実に文字が上達するという「速習レッスン」が人気で、すでに約171万人が受講している(2012年7月現在)。

 またテレビの世界でも、「美文字」は新しいムーブメントを起こしている。バラエティ番組『中居正広のミになる図書館』(2013年4月~/テレビ朝日系)では、「怪しい美文字大辞典」という人気コーナーがある。これは、有名芸能人たちが本気で美文字を競うもので、厳密な採点による美文字ランキングがずらり発表される。講師を務めるのは、前出の中塚翠涛氏。的確な講評がわかりやすいと支持を集め、一般視聴者にも美文字の素晴らしさを強く実感させるものだ。

 このように、手書きの文字の温かみや美文字の魅力が再評価されているようである。日常生活においても、美しい文字を書けることが、教養や品性などにも結び付き、大きな価値を持つと見なされているのかもしれない。

 ある企業の採用担当者は、「字の丁寧さと人の礼儀正しさは比例している」と断言していた。逆に言えば、字が粗雑だと、人物も粗雑なことが多いということだろう。PCを使って入力するES(エントリーシート)全盛期の今も、手書きの履歴書を重視するという。

 このように、IT文化が成熟しきった現代だからこそ、手書き文字が放つメッセージや情報量は、想像以上に大きいと言えるのではないか。「丁寧で美しい文字が書けるようになりたい」…心からそう思うのは、筆者だけではないだろう。

(田島 薫/5時から作家塾(R)