スタートアップのための戦略論を解説する連載の第2回。ベンチャー・キャピタリストの投資家である高宮慎一氏から見て、起業のイメージはどのように変化しているか、また現在の日本が起業家にとってどのような環境なのかをまとめてもらおう。

起業はすべてアートなのか?

 日本では「起業というと一発必中で成功しなければいけない、失敗すると人生の落伍者だ」といったようなイメージを抱きがちです。多くの人にとってそれが起業に尻込みする理由になっていると思います。しかし、それは大きな間違いです。

 デザインファームの日本での事業展開を考えるうえで、当初は米国でのデザインファームの生い立ちがそうであったように、具体的な物の開発のコンサルティングや受託が最初に受容されそうだという仮説でした。しかし、クライアント候補や日本のデザイン業界の有識者のヒアリング、米国のデザインファーム本社や日本でのパートナー候補との議論を通じて、むしろクリエーティブをマネージして競争優位に繋げるための戦略、仕組、組織作りなどのより経営コンサルティング寄りのサービスの方が受け入れられそうだということがわかってきました。さらには、インターネットやゲームのベンチャーの話を聞く中で、通常デザインファームの顧客となっていたような大企業以外でも、効果的にクリエーティブをマネージすることでよりイノベーションを起こしやすくするというニーズがあることがわかりました。

 今現在ベンチャー・キャピタリストとして投資先のベンチャーに経営支援をするうえで、デザインファームの考え方は大きく役立っています。

0→1の閃きのようなものは、どこまでいってもアートの世界で、当たる、当たらないは製品を出してみないとわからない“ヒット”ビジネスです。組織の中でも最も希少な天才肌の人材をそのフェーズに集中させ、多産多死で失敗を許容する仕組み、文化を作り上げるマネジメントが重要なのです。

 一方で、1→10のフェーズは完全にサイエンスの世界なので、このフェーズに達したらマネージの方法を完全に切り替えます。ロジカルに製品の開発計画や事業計画を詰め、目標とする成長性なり収益性なりの基準に達しないと判断したら冷徹にプロジェクトを廃止して、貴重なリソースを新規プロジェクトに振りなおします。0→1がヒットビジネスで打率を上げることには限界があるため、1→10のフェーズではいかに効率的に打席数を稼ぐかが重要なのです。