「ものづくり」こそが日本産業の要であり、これからも我々の生活を豊かにしてくれるのだ――。今もあちこちで耳にするこの言葉は、果たして本当なのだろうか? 他人がつくった「もの」に囲まれて生活することで、自分の暮らしを自分の手でつくる、ということを忘れてしまったのではないか?
インド辺境の「ファブラボ」を実際に訪れた僕は、そこで実践されている問題解決型ものづくり「ソーシャル・ファブリケーション」によって、つくる人と使う人が手を取り、よりよい社会、暮らしを日々築きあげていく光景を見た。MITも可能性を見出した、「自分の暮らしを変える力」としてのものづくりの可能性に迫る。

いま、なぜ全世界が「ファブラボ」に注目しているのか?
3Dプリンタ革命の真の意味

 2013年8月21日から27日にかけて、横浜市で「第9回世界ファブラボ会議」が開催される。これは、世界中からファブラボ(Fablab)の運営者がやってきて、各地域の課題を分かち合いながら、一週間にわたって「ものづくり」の研究合宿をするという盛大なイベントだ。

 現在、ファブラボは世界50ヵ国200ヵ所に存在しており、急激に拡がっている。アメリカでは70万人都市につき1か所のファブラボをつくるという政策がオバマ大統領も巻き込んで進められており、2012年8月には、ロシアでも全国に100ヵ所設立するという声明が発表された。いわゆる先進国だけでなく、ケニアやガーナ、アフガニスタンなど、世界中のあらゆる場所でファブラボは生まれている。

 ファブラボは、3Dプリンタやレーザーカッターといったデジタル工作機械を備えた、(ほぼ)なんでもつくることができる「オープンな実験工房」だ。普通の「工作室」と異なるのは、そこに秘められた多様性にある。

 慶應義塾大学准教授の田中浩也さんによれば、ファブラボが包摂していることは「ものづくり教育」「まちづくり」「市民運動」「適正技術」「芸術表現」「研究開発」「町工場活性化」「ビジネスインキュベーション」など、じつにさまざまだ。しかし、各分野の重なりを見ていくと、そこは「ものづくりを通じた〈問題発見・問題解決〉」の場所であることがわかる。だからこそ、さまざまな事情を抱えた各国各地域が、こぞって熱い視線を向けているのだ。

 今回は、世界最古のファブラボがあるインドの農村を訪ねて、ソーシャル・ファブリケーション(問題解決型ものづくり)の最前線で何が起きているかを紹介しよう。