日本最大級のコワーキングスペースを設立・運営する傍ら、年200回を超えるイベントで全国の起業家たちの背中を押す。そして数字よりも人物を見て現在までに60社に投資。うち複数がイグジットしただけでなく、未だに倒産はゼロ――。
その実績から2010年代の起業ブームの中心人物と目されるインキュベーターが、「いま、この日本での」起業のリアルを解説する連載の第3回は、最近の起業環境の変化と、それに大きな影響を与えたSNSについて見ていきます。

安くなったパソコン、通信費、サーバ代

 ここまで、最近の起業家に関することを話してきましたが、それと関連して、起業家を取り巻く環境が昔(たとえば第3世代の頃)とどう変わったかについても整理しておきましょう。

 設備投資やある程度の人件費が必要な製造業、サービス業と比べて、IT系の場合はもともと起業にかかる費用が格段に安く、それが以前の起業ブームの1つの理由でした。しかしそれでも、2000年の頃に起業したら、一般的には、事務所代、机・椅子などの設備、パソコン、サーバ、電話・ファックス・コピー機、事業展開するための広告・宣伝費などが必要でした。会社を登記する場合にも、株式会社で1000万円、もうつくれなくなった有限会社で300万円が必要でした。

 それがいまでは、とにかくお金がかからなくなりました。

 その理由を挙げてみると、まず、絶対に必要なパソコンの値下がりがあります。昔は、1台で数十万円もする巨大なデスクトップPCが数台はないと、事業をはじめられませんでした。ノートパソコンもありましたが、通信環境がまったくといっていいほど整っておらず、ほとんどの人は自宅やオフィスの中だけで使っていました。IT系の企業のオフィスには何台ものパソコンが並び、床にはLANケーブルが張り巡らされていたものです。

 ところがいまは、処理能力と容量が段違いになったパソコンが、安ければ5万円ほどで買えてしまいます。

 通信費用も昔は経営者の頭痛の種でした。それが、2001年に孫正義さんがADSLサービスYahoo! BB開始したことをきっかけに、あっという間に下がりました。そしていまでは、イーモバイルに代表される無線LANサービスや無線Wi-Fiが月々数千円、場合によっては無料で利用できます。起業家やエンジニアにとっては夢のような環境になっています。

 サーバにかかる費用が圧倒的に安くなったことも大きいです。2000年以前には、ウェブサービスを立ち上げるのに最初から自社でサーバをそろえる必要があったし、その維持に数十万円、数百万円のお金が月々かかっていました。

 その後、レンタルサーバのサービスがはじまりましたが、それも当初はまだ高く、GREEの田中良和さんやピクシブの片桐孝憲さんも、創業当時、クレジットカードでキャッシングをしながらサーバ代を払っていたという逸話があります。その頃までは、いかに限られたサーバの容量の中で、サービスを維持するかがエンジニアの腕の見せ所だったのです。

 それが、「クラウド」の充実で一気に安くなりました。たとえばMicrosoftやAmazonは無料のレンタルサーバのサービスまではじめていて、普通のウェブサービスのテスト版なら、その枠内で十分にスタートできます。国内では、ビットアイルやさくらインターネットなどが有名ですね。